韓国特許庁は2021年1月18日に人工知能分野審査実務ガイドを発表した。本ガイドでは、機械学習(Machine learning)基盤の人工知能(Artificial Intelligence)技術を必要とする発明を人工知能関連発明と定義し、人工知能分野審査実務ガイドは人工知能関連発明に関する出願に適用されるものと適用範囲を定めている。
発明の成立要件および請求項記載要件に対しては既存のコンピュータ関連発明審査基準と同じ基準を適用している。すなわち、人工知能関連発明でソフトウェアによる情報処理がハードウェアを利用して具体的に実現される場合には自然法則を利用した技術的思想の創作として発明に該当するが、コンピュータプログラム自体は自然法則を利用した技術的思想の創作ではないので発明にはならない。
請求項の記載においても、方法の発明は時系列的に連結された一連の処理または、操作、すなわち段階で表現でき、物の発明は『コンピュータプログラム記録媒体請求項』、『記録媒体に記録されたコンピュータプログラム請求項』、『データ構造記録媒体請求項』として記載することができる。
AI特許実務において新しく参考にすべき、記載要件および新規性/進歩性の判断基準は次の通り。
発明説明の記載要件
本ガイドでは、発明の説明に人工知能技術分野で通常の知識を有する者が出願時の技術常識に基づいてその発明を簡単に実施できるほど明確で詳細に記載されていなければならないが、人工知能関連発明が簡単に実施されるためにはその技術分野で通常の知識を有している者が発明を実現するための具体的な手段、発明の技術的課題およびその解決手段などが明確に理解されるように、発明で実現する人工知能技術に関する具体的な内容を記載しなければならないとしている。
発明を実現するための具体的な手段として、本ガイドでは学習データ、データ前処理方法、学習モデル、損失関数(Loss Function)を挙げている。
また、実施可能要件の違反事例として、次の事例を紹介している。
1) 請求項に記載された発明に対応する技術的段階または、機能をハードウェアまたは、ソフトウェアでどのように実行したり実現するのか記載せず、通常の技術者が明確に把握することはできない場合
2) 入力データと学習済みモデルの出力データ間の相関関係を具体的に記載していない場合
3) 請求項に記載された発明の機能を実現するハードウェアまたは、ソフトウェアを単純に「機能ブロック図(block diagram)」または「フローチャート図」のみで表現し、その「機能ブロック図」または「フローチャート図」からどのようにハードウェアまたは、ソフトウェアが具現されるのかを明確に把握することができず、通常の技術者が明確に把握することはできない場合
特に、2)と関連して、入力データと学習済みモデルの出力データ間の相関関係が具体的に記載されている場合とは、①学習データが特定されており、②学習データの特性相互間に発明の技術的課題を解決するための相関関係が存在し、③学習データを用いて学習させようとする学習モデルまたは学習方法が具体的に記載されており、④このような学習データおよび学習方法により発明の技術的課題を解決するための学習済みモデルが生成される場合を意味する。
ただし、出願発明が機械学習の応用に特徴があるもので、通常の機械学習方法を活用して発明の技術的課題を解決することができ発明の効果を確認できるのであれば、学習データを利用して学習させようとする学習モデル、または学習方法が具体的に記載されておらず単純に通常の機械学習方法のみが記載されていても、実施可能要件を満たしていると見ることができるとしている。
新規性/進歩性
新規性と進歩性においては、請求項に記載された発明と引用発明の同一性の判断は人工知能関連発明を実現するための具体的な手段(学習データ、データの前処理方法、学習モデル、損失関数(Loss Function)等)を考慮して構成を比較して両者の構成の一致点と差異点を抽出して判断するとしている。
また、進歩性の認否については、①請求項に記載された発明を特定した後、②請求項に記載された発明と共通する技術分野及び技術的課題を前提に通常の技術者の観点から引用発明を特定し、③請求項に記載された発明と「最も近い引用発明」を選択して両者を比較し、一致点と差異点を明確にした後、④このような差異点にもかかわらず、「最も近い引用発明」から請求項に記載された発明に至ることが通常の技術者に容易か否かを他の引用発明と出願時の技術常識及び経験則などに照らして判断する。
また、進歩性を否定した事例として、次の事例を紹介している。
1) 出願前に公知となった人工知能技術を単純に付加した場合
2) 人が行っている業務またはビジネス方法を公知となった人工知能技術で単純にシステム化
3) 人工知能技術の具体的適用にともなう単純な設計変更(出願発明が引用発明の技術思想をそのまま利用したまま両発明間の課題解決のための具体的手段の差が単純に公知となった人工知能学習モデルの変更により発生した場合)
4) 周知・慣用手段の単純付加または、均等物による置換
人工知能分野発明の出願はまだ審査事例が多くなく、ガイドで紹介されていない事例においては審査基準がどのように適用されるかは未知数である。従って、現在としては明細書の作成および審査結果への対応などにおいて、ガイドで説明している要件や事例に最大限符合するように対応していく必要があると思われる。