特許発明は軽金属を含む非鉄金属を鋳造する方法発明に関し、通常の技術者が特許出願当時の技術水準に照らして特許発明が先行発明と差があるが、そのような差を克服して先行発明から容易に発明することができるか否かについて、特許発明の請求範囲に記載された請求項が複数の構成要素からなる場合に各構成要素が有機的に結合した全体としての技術思想が進歩性判断の対象になるという法理を提示した上で、進歩性を認めた(特許法院2022.4.15.言渡し2021ホ3505判決)。
事実関係
原告の特許発明は、軽金属を含む非鉄金属を鋳造する方法発明である。
原告は、本件出願発明の構成のうちリン含有化合物を添加する構成は、金属鋳造の間に変形が起きない薄壁の部分を実現することができる一方、先行発明2のリン含有化合物添加は、従来の無機結合剤であるケイ酸塩とリン酸塩を組み合わせた結合剤の問題点である低強度および低流動性を改善するためであって、本件出願発明のような金属鋳造の間に変形が起きない薄壁の部分を実現するためではないので、先行発明1に先行発明2を結合して容易に導き出すことはできない旨を主張した。これに対し、被告は、本件出願発明のリン含有化合物を添加する理由である「鋳型の強度増加および鋳造後の鋳型の優れた崩壊」と先行発明2のリン酸塩を添加する理由である「鋳型の熱間および冷間引張強度の向上と良好な鋳型崩壊性」は実質的に同一であるので、本件出願発明は通常の技術者が先行発明1の鋳型混合物に先行発明2のホスフェートを添加して容易に導き出すことができると主張した。
特許法院の判断
特許発明の請求範囲に記載された請求項が複数の構成要素からなっている場合には、各構成要素が有機的に結合した全体としての技術思想が進歩性判断の対象になるのであり、各構成要素が独立して進歩性判断の対象になるのではないため、その特許発明の進歩性を判断する時には請求項に記載された複数の構成を分解した後、それぞれ分解された個別の構成要素が公知となったものであるか否かのみを確認してはならず、特有の課題解決原理に基づいて有機的に結合された全体としての構成の困難性を確かめてみるべきで、この時、結合された全体構成としての発明が持つ特有な効果も共に考慮しなければならない。
かかる法理を提示した上で、先行発明1は、アモルファス二酸化ケイ素を使って鋳型の成形直後または長期間保管時の強度の向上のみを考慮しているだけであって、本件請求項1の出願発明が解決しようとした課題である、鋳造工程のうち熱による強度の急激な低下問題とこれを克服する熱安定性の向上については考慮しておらず、また、先行発明2に、鋳型材料混合物にリン酸塩含有化合物を含む構成が開示されているが、これは高温引張強度および低温引張強度値が増加する効果のためのものだと記載されており、鋳造過程において鋳造鋳型の薄壁の部分で熱安定性誘導などの効果を有する本件請求項1の出願発明の効果とは異なった効果を開示しているだけなので、本件請求項1の出願発明の効果は通常の技術者が予測できるとか、または、このような効果を達成するために先行発明1に先行発明2の結合を試みることが明らかだとは認め難いと判断し、本件出願発明でリン含有化合物を添加する構成は通常の技術者が容易に克服することはできないと判断した。
コメント
本件判決における主なイシューは、出願発明と先行発明1の差異点に該当する構成が先行発明2に開示されている場合において、上記差異点に該当する構成による出願発明の効果が先行発明2に開示されていないので先行発明1に先行発明2の結合を試みることが自明でないとして、進歩性が認められた部分であった。
韓国特許審査の実務上、先行発明1に開示されていない出願発明の構成が先行発明2に開示されている場合、先行発明1および2を組み合わせて出願発明の進歩性を否定する場合が多い。これに反して、本件は、先行発明1および2を組み合わせる程度の技術的効果が先行発明に記載されているかどうかを考慮した上で、進歩性を認めた。こうした複数の先行発明に対して進歩性を主張する場合には、先行発明に記載された技術的目的や効果を綿密に検討した上で複数の先行発明の組み合わせの非容易性を主張する根拠として、本判決は活用することができよう。