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文言侵害および均等侵害の有無の判断基準

2023.02.16

本判決は、被告製品が本件請求項1発明の一部の構成要素である「パイプ要素」を除いた全ての構成と同一または均等な構成要素を含んでいるか否かが争点になった。被告製品が「パイプ要素」を除き、本件請求項1発明と同一または均等な構成要素を含むのであれば、被告製品が本件請求項1発明の実施にのみ使用される物(すなわち「専用品」)である場合、被告製品は本件請求項1発明の間接侵害に該当1し得る。(大法院2022. 10. 14言渡し2022ダ223358判決)

 

事実関係

 

原告(上告人)は、被告(被上告人)を相手にして、被告製品が本件特許発明「変形可能な機械的パイプカップリング」の特許権を侵害(または間接侵害)することを理由として特許侵害差止請求の訴えをソウル中央地方法院に提起した。ソウル中央地方法院は原告の請求を棄却し、これに対し原告は特許法院に控訴したが、控訴審でも原告の請求が棄却された。

事件の争点になったのは、本件特許発明の請求項1(以下、「本件請求項1発明」とする)の構成要素8(詳しくは後述)であったところ、控訴審の特許法院では、当該構成に対して被告製品は本件請求項1発明の構成要素8と同じ構成または均等な構成を含むとは認められないと判断して控訴を棄却し、原告はこれを不服とし大法院に上告した。

 

大法院の判断

 

■関連法理
特許権侵害訴訟の相手側が製造する製品または使用方法等(以下「侵害製品等」とする)が特許権を侵害するというためには、特許発明の請求の範囲に記載された各構成要素とその構成要素間の有機的結合関係が侵害製品等にそのまま含まれていなければならない。侵害製品等に特許発明の請求の範囲に記載された構成のうち変更された部分がある場合であっても、特許発明と課題解決原理が同一で、特許発明と実質的に同じ作用効果を示し、さらに変更をすることがその発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に考え出すことができる程度であれば、特別な事情がない限り侵害製品等は特許発明の請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、依然として特許権を侵害すると見なければならない(大法院2019.1.31.言渡し2017フ424判決、大法院2020.4.29.言渡し2016フ2546判決等参照)。

 

■原告特許の文言侵害かどうか
本件請求項1発明は、同一軸上に位置する2つのパイプ要素(その外部面が特定の曲率半径を有する)を、2つのカップリングセグメント(その内側のアーチ型表面が特定の曲率半径を有する)で挟んで連結部材(ラグ、ボルトおよびナットからなる)により結合するパイプカップリングに関するものである。その構成要素8は「カップリングセグメントが、円周方向のグルーブ内においてパイプ要素の外部面にアーチ型表面の曲率を一致させるために連結部材が締め付けられるとき変形されるもの」であるところ、請求の範囲の文言に書かれている一般的な意味と内容に基づいて発明の説明と図面を参酌してみると、構成要素8の「曲率を一致させるために」の部分は単純に曲率変形に関連した主観的な目的を記載したものではなく、連結部材が締め付けられるときにカップリングセグメントのアーチ型表面の曲率がその円周方向のグルーブ内においてパイプの外部面の曲率に一致する程度まで変形され得る点を限定したものと解釈するのが妥当である。ただしこのとき「曲率の一致」は微細な誤差もない完全な曲率の一致を意味するのではなく、漏水防止のようなパイプカップリングとしての正常な機能を発揮できる程度にセグメントのアーチ型表面と、グルーブ内においてパイプの外部面とが実質的に合致する状態を意味するものと解釈される。

 

第一審の鑑定の結果によれば、被告製品のうち製品名2ないし4の製品は連結部材が締め付けられるときアーチ型表面の曲率が漏水防止のようなパイプカップリングとしての正常な機能を発揮できる程度に、グルーブ内においてパイプの外部面と実質的に合致する程度まで変形すると認めるのに充分であるため、構成要素8を含んでいると見ることができる。

被告製品のうち製品名1の製品についても、他の製品と同様、アーチ型表面の曲率が漏水防止のようなパイプカップリングとしての正常な機能を発揮できる程度に、グルーブ内においてパイプの外部面と実質的に合致する程度まで変形すると見る余地もある。

それにもかかわらず、原審はその判示における事情のみを理由として被告製品全体に関して構成要素8を具備していないと判断した。このような原審の判断には被告製品の構造および変形程度と関連して必要な審理を尽くしておらず、文言侵害に関する法理を誤解する等して判決に影響を及ぼした誤りがある。

 

コメント

 

本件は文言侵害の判断が争点となったところ、請求の範囲の「曲率を一致させるために」という文言を解釈する際、当該請求の範囲に記載された文言の一般的な意味と内容に基づいて発明の説明と図面を参酌し、これにより「曲率の一致」とは「微細な誤差もない完全な曲率の一致を意味するのではなく構成要素にともなう正常な機能を発揮できる程度に実質的に合致した状態を意味する」として、文言侵害を認定するための要件を具体的に指摘した点が有意味であった。もちろんこの認定要件は本件に限定されるものだが、今後も請求の範囲の記載のみではその意味が明確に解釈されず文言侵害であるか否かが争点になるような場合には、今回の判決が参考になると思われる。すなわち、請求の範囲の文言の意味を明確に特定するためには発明の説明および図面の記載を参酌することができるとともに、必要な場合には、鑑定等の追加の手続きを通してその文言の意味を明らかにしていく努力が必要となろう。

 

加えて今回の判決では、文言侵害の判断と別途に均等侵害に関する判断もしている。その判示内容としては、たとえ被告製品、特にその一部の製品(製品名1)の連結部位が締め付けられるとき変形する程度が本件請求項1発明の構成要素8(曲率が一致する程度まで変形)との実質的合致の程度には及ばず文言侵害が成立しないと認められたとしても均等侵害に該当するものと判断しており、これは大法院の従来の均等論の判断法理を踏襲したものであった。

 

なお、本判決は上記の点を含み間接侵害の成否が争われたものだが、韓国特許法において間接侵害の成立要件としては「特定の物または方法の実施にのみ使用する物(専用品)」の生産、譲渡等をする場合のみを規定している。今回の大法院判決では原審判決に誤りがあることが認められて原審判決が破棄されたことから、その後の控訴審では、被告製品が、本件請求1発明の物(カップリングセグメントと一対のパイプ要素からなる組合体)の生産にのみ使用する物(「専用品」)であるか否かを審理し、本件請求項1発明の特許権の間接侵害が成立するか否かを再度判断するものとなろう。今後も注意深く見守る必要がある。

 


1. 「専用品」の同一物だけでなく「専用品」の均等物に対しても「間接侵害」を認めるというのが韓国判例の見解である(特許法院2007.5.23,2006ホ6679)。

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