韓国では、日本の知的財産高等裁判所に相当する「特許法院」が1998年3月に設立され、現在まで運営されてきている。この特許法院に関する最近の動きとして、韓国法院行政処は特許法院の英文表記の変更の必要性について管轄との一致、国際的交流および広報等を理由として挙げ、2023年2月16日から特許法院の英文名称を「Intellectual Property High Court」に変更した。
特許法院の管轄については2016年から施行されている管轄集中制度により、特許法院は、特許審判院の決定系および当事者系事件の審決等に対する取消訴訟に加えて、農水産物品質管理法の訴訟および植物新品種保護法上の訴訟を取り扱っており、さらに特許権、実用新案権、デザイン権、商標権、品種保護権(以下、「特許権等」)に関する民事本案訴訟の控訴事件も処理している1。なお、現在、特許権等に関する訴訟(民事本案、民事仮処分、刑事)の第一審は、高等法院所在地の6つの地方法院を管轄として処理されている。
こうした韓国の特許法院の管轄集中制度は、特許権等の民事本案訴訟のみ処理していることから、近年、重要性が高まっている著作権、営業秘密、不正競争行為等に関連する他の知的財産訴訟が管轄集中の対象から除外されている問題や、同一の事件であるとしても民事本案訴訟の第二審は特許法院で行われるのに対し、迅速な判断が必要なときに優先的に行われる民事仮処分事件の抗告や刑事事件の控訴については他の高等法院で行われるという問題があった。このため、管轄集中の拡大が必要だという意見がこれまで提起されてきた。
さらに、2020年2月の大法院の商標権侵害損害賠償判決では、特許法院の管轄が問題となり「原審判断を破棄して事件を特許法院に差戻す」と判示される事件があった。具体的な破棄差戻しの理由としては、当該事件の原審(第二審)が特許法院で審理が行われず一般法院で審理が行われたために、その判断自体が無効とされたものであった。すなわち、この第二審の事件が行われている間、弁護士、裁判当事者、さらに判事までが管轄の誤りを看過していたといえる。
こうした中、大統領所属の「国家知識財産委員会」は、知的財産権事件に関連する混乱を減じ国民の便宜を増大させるために2020年5月から特許法院管轄集中の拡大を推進する案について議論を開始し、2023年1月31日には「知識財産権関連訴訟専門性向上特別専門委員会」を発足して、1年間にわたり①民事訴訟検討小委員会(他知的財産訴訟、仮処分訴訟を含む)、②刑事訴訟検討小委員会を設け、管轄集中の拡大と改善法案、効率性向上案等を中心に知的財産権関連の訴訟制度が進むべき方向を議論するという。
これに関連して、過去の管轄集中関連法律の改正も国家知識財産委員会の議決後に、大法院および国会を経て準備されたという点を考慮すると、今後、国家知識財産委員会が「創意性が豊富な素敵な知識強国」の実現というビジョンの下、判決の専門性および信頼性向上の一環として訴訟管轄集中の拡大に向けた議論と改善案の提示をどのように行うのか進展状況を見守る必要がある。
1日本の知的財産高等裁判所は、東京高等裁判所の特別支部として、審決等に対する取消訴訟、知的財産権民事訴訟の控訴事件、主要な争点の整理に知的財産権に関する専門的な知見を要する事件等を取り扱っている(知的財産高等裁判所設置法第2条)。