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ニュースレター

韓国の「国家知識財産委員会」とその最新動向

2023.08.25

日本では知的財産政策を推進するための政府機関として「知的財産戦略本部(Intellectual Property Strategy Headquarters)」が2003年3月に内閣に設置されているが、韓国でも知識財産基本法(2011年5月公布)により、2011年7月に大統領直属の諮問機関として「国家知識財産委員会(Presidential Council on Intellectual Property)」が設置されている。同委員会は、韓国において科学・技術分野の特許および文化・芸術・コンテンツ分野の著作権などの知的財産を創り出して活用するための国家戦略を樹立し、関連政府政策を調整するなど、知的財産分野のコントロールタワーの役割を務めるものとされている。1 

国家知識財産委員会の組織構成や最近の主な政策および活動を、以下で紹介する。

1. 組織
国家知識財産委員会は、国務総理と大統領が指名した1人の民間委員長2とで構成される2人の共同委員長と、副総理、部署別長官および特許庁長で構成される政府委員13人と、民間委員18人など、計40人以内で構成される。その中で幹事委員の役割は、政府委員の中で科学技術情報通信部長官が遂行する。
同委員会の業務を効率的に遂行するために、知的財産の創出/保護/活用/基盤/新知的財産の分野別に5つの専門委員会が設けられており、各委員会において案件の事前検討や知的財産政策イシューを発掘している。加えて、重要事案に対する専門的検討のために臨時の特別専門委員会を構成・運営することができるほか、知識財産戦略企画団が委員会事務局として委員会の業務支援を担当している。

 

 

2. 主な政策:第3次国家知識財産基本計画(2022年~2026年)
国家知識財産委員会は、国家戦略分野の核心IP競争力の確保、IP基盤の国家革新成長持続およびグローバル強小企業の育成、デジタル経済でのIP侵害防止および保護力量の強化を目標としており、以下の5大推進戦略を掲げている。3
 
①デジタル大転換時代の核心IP創出・活用の促進
②戦略的IP保護体系の強化
③IP基盤グローバル強小企業の育成
④新韓流拡散を先導するK-コンテンツの育成
⑤グローバルIP先導による国家基盤の造成

 

(1) デジタル大転換時代の核心IP創出・活用の促進
①戦略技術・ディープテック分野の特許ビックデータ分析*を通じてR&D有望分野を発掘(特許庁) 
* (2022年)ロボット・宇宙など9つの技術 → (2023年)半導体・ディスプレイなど9つの戦略技術・ディープテック
②主力産業の競争力強化および未来技術の先行獲得のためにIP基盤R&Dを拡大(特許庁)、グローバル技術覇権主導権の確保および気候危機対応のために12大国家戦略技術4 およびカーボンニュートラル分野IP-R&D支援の拡大
③知的財産取引所の経験・ノウハウ、ブランドなどを参画する民間に共有するなど、民間取引機関育成を推進
④中小企業の外部技術導入・事業化など、開放型革新を促進するためのAI基盤知能型技術取引プラットホームを運営(中小ベンチャー企業部)
※オンライン技術契約システムの構築、技術マーケティングキットの製作、技術需要提案書の高度化
⑤潜在的市場価値のある未活用公共R&D成果物を民間に移転し、後続商用化R&D支援を推進(産業部)
⑥政府R&D投資の効果性の向上および優秀性と創出のために、「国家研究開発成果管理・活用制度改善」を推進(科学技術情報通信部)
※ IP維持・管理・放棄関連の自律性の付与、技術移転・事業化・創業実績に連係した成果の評価、技術移転・事業化実績が優秀な機関に対する課題選定の優待など
⑦メタバース・AIなど新技術活用拡散のための政策基盤作り(特許庁、文化体育観光部)
※メタバース事業者などの著作物利用時の留意事項、メタバース創作物の著作権帰属などの研究、メタバース内流通段階別著作物利用案内書発刊の推進
※メタバースコンテンツ振興に関する法律制定の推進および施行令の設置

(2) 戦略的IP保護体系の強化
①技術警察の捜査範囲を特許・営業秘密・デザイン権侵害から産業財産権・技術侵害全般に拡大*するなど、捜査機能の強化を推進(特許庁)
* 産業技術・営業秘密侵害行為全般(無断流出、不当保有など)、実用新案・データ保護措置の無力化行為などについて関連司法警察職務法の改正推進(国会法司委係留中)
※ IMD国家競争力の順位(’22):韓国特許出願4位 vs 知財権保護37位
②主力産業の技術競争力維持のために国家核心技術の保護を推進(産業部)
※産業技術保護法など国家核心技術制度整備を含む技術流出防止体系の強化、国家核心技術保護のための実態調査強化、産業技術保護認識の改善
③海外の知的財産権侵害実態の調査・情報提供および海外の現地偽造商品取締りを通じた韓国企業の海外知的財産権保護の支援を強化(特許庁)
④中堅・中小企業の公正取引協約への参加向上のために公正取引協約制度の改善を推進(公正取引委員会)
⑤デジタル環境における著作権紛争を早期に解決できるように著作権調整制度を運営(文化体育観光部)

 

(3) IP基盤グローバル強小企業の育成
①大学実験室の研究成果を活用した技術革新型創業を断絶なしに支援する大学実験室創業拠点を育成(科学技術情報通信部)
③アイディア発掘による創業準備から初期・成長段階に至るまで、段階別オーダーメード型支援を通じてIP基盤創業を促進(特許庁)
③特許活用率を高めて核心技術の海外流出を防止するなど、中小・ベンチャー企業の革新成長を促進するためのIP投資ファンドを造成(特許庁)
④優秀技術を保有するが担保力が十分でない中小・中堅企業の技術事業化および金融連係支援を推進(産業部)
※技術評価機関品質管理および力量強化など、技術評価報告書の信頼性向上および客観性向上の努力
⑤有望スタートアップが必要なIPサービス*を希望する時期に選択して支援を受けることができる需要者中心のIPサービスを提供(特許庁)
※ IP権利化、特許調査分析およびコンサルティング、IP価値評価、技術移転、営業秘密保護など

 

(4) 新韓流拡散を先導するK-コンテンツの育成
①革新的アイディアの事業化を支援するためのコンテンツIPファンドの新設など。政策ファンド造成により世界的なIP保有コンテンツ企業の育成を支援(文化体育観光部)
②新規コンテンツIP確保およびグローバル競争力強化のためのOTTコンテンツ製作を支援(文化体育観光部)
③コンテンツ製作施設、関連スタートアップ入居空間などのインフラ提供を通じてデジタルメディア産業育成および創業活性化を推進(科学技術情報通信部)
④オンライン著作権侵害対応のために文化体育観光部-インターポール間の協力を拡大(文化体育観光部)
⑤文化産業分野の不公正行為に対する市場監視を推進(公正取引委員会)

 

(5) グローバルIP先導による国家基盤の造成
①IP力量を備えた創意・融合型未来人材養成のために青少年発明・著作権教育を運営(特許庁)
②新技術関連過程(学科・専攻)においてIP融合教育を総合支援し、技術専門性とIP力量を兼ね備えた融合人材養成を推進(特許庁)
③AI、6G、量子通信、次世代セキュリティーなど国家核心技術分野の国際標準化主導権確保のための活動を強化(科学技術情報通信部)
※国際標準専門家プールの拡大、議長団進出および国際標準化会議の参加支援
④WIPO地域事務所誘致のための活動強化および関係部署共助を推進(特許庁)
⑤正当な補償体系確立のための職務発明制度の改善を推進(特許庁)
-職務発明継承制度の改善* および資料提出命令・秘密保持命令制度の導入**
* 予約継承規定を設けた場合、その権利が発生した時から使用者に帰属するように継承制度の改善
** 職務発明補償金訴訟で発明者が実効的に証拠を確保することができるように、資料提出命令および秘密保持命令制度導入の推進

 

3. 最近の主な活動
(1) 専門委員会および特別専門委員会の運営
上述した5つの専門委員会のほか、2020年から2022年にかけて「人工知能(AI)-IP特別専門委員会」を運営した。

 

(2) 「国家知識財産ネットワーク(KIPnet) 」の運営
「国家知識財産ネットワーク(Korea Intellectual Property Network)」は、現場需要中心のIP課題発掘と情報交流のために2012年4月にスタートした民・官IP政策協議体である。2022年は「知識財産(IP)基盤地域経済活性化方案」をテーマとして「国家知識財産ネットワーク(KIPnet)カンファレンス」を開催し、「地域発展と産業多角化」、「地域革新成長のための技術取引市場構築方案」および「地域手動の知識財産基盤未来新産業創出戦略」をテーマとした発表を実施した。

 

(3) 2023年の主な活動
① 「IP訴訟専門性向上特別専門委員会(IP訴訟特別委)」スタート
2023年1月、管轄集中制度の拡大と特許訴訟専門化のために「IP訴訟特別委員会」をスタートした。この特別委員会には知的財産業界と法曹界、関連部署から選ばれた委員が参加し、特許権、実用新案権、商標権、デザイン権、品種保護権の5つの知的財産権民事本案訴訟にのみ適用されている管轄集中制度を、営業秘密と不正競争行為のようなその他の知的財産訴訟および仮処分訴訟と刑事訴訟にまで範囲を拡大する方案を議論し、裁判当事者の特許訴訟専門性向上の方案などを議論中である。

②「知的財産とメタバース」の国際フォーラム開催
「メタバースにおける知的財産イシュー研究」をテーマとして、文化体育観光部と特許庁が共に2022年11月に「知的財産とメタバース」の国際フォーラムを開催した。
フォーラムでは韓国、アメリカ、EU、日本、WIPO等、各国のメタバース関連制度の動向を共有し、国際的知的財産紛争発生時にこれを解決するための代替的紛争解決制度(ADR)、韓国の国際司法を基盤とした国際的解決方案提案など、メタバース知的財産イシューに対する国家間協力方案を議論した。

③郷土知的財産と地域革新フォーラムの開催
2023年から、地域に内在する固有資源の発掘・活用を通じた地域発展と地域問題解決の方案などを模索するために、関連部署・地方自治体と協力してフォーラムを開催している。
フォーラムには、関連部署、地方自治体、知的財産専門家などが参加し、地域に潜在する郷土資源の知的財産化を通じた地域産業化誘導方案および地域革新と成長促進方案について議論する。

 

4. 国家知識財産委員会の発行資料
(1) 『技術の海外流出と奪取防止のための研究者ガイドライン』
技術の海外流出および奪取に対する認識と警戒心を向上させるために、保護対象となる技術の種類、技術流出の類型および被害事例、主な法令、および研究者が活用できるチェックリストを主な内容とするガイドラインを2022年に発刊した。同ガイドラインは、関係部署、政府出資の研究機関、大学産学協力団および分野別研究学会などに配布され、同委員会ホームページに掲示されて、研究者や企業などで広く活用することができるように提供されている。

 

(2) 『バイオ-IPイシューペーパー』
バイオ・ヘルス分野の企業または研究機関が技術開発および事業化時に活用できるIP情報を提供するために、2021年から『バイオ-IPイシューペーパー』を定期的に発刊している。
2022年には、バイオ-IP関連最新イシュー、主なIP紛争・訴訟事例、優秀バイオ特許ポートフォリオ分析、国内/外特許動向、バイオ-IP分野の主な政策および支援事業の紹介など詳しい内容により構成し、オンラインを中心に配布した。

 

(3) 『年度別知識財産保護政策執行年次報告書』
韓国政府が推進した知的財産保護政策および執行成果などがまとめられた報告書で、韓国語版および英語版がある。関係部署、知的財産の関連機関、駐韓外国大使館、駐韓外国商工会議所、海外知的財産センターおよび在外韓国文化院などに配布されている。また、オンラインにより誰でもダウンロードして閲覧できるように、同委員会のホームページ資料室に公開中である。

 

5. まとめ
国家知識財産委員会は、急変するグローバル環境の中で「創意性にあふれた優れた知識強国」をスローガンとし、韓国特許庁と協力して国家次元での知財戦略樹立と政策調整を行うための努力を続けている。引き続き、韓国の知財関連政策の方向や活動の内容を見守る必要があると思われる。


1.国家知識財産委員会2022年次報告書
2.2022年11月、第4代民間委員長として弊所の弁理士である白萬基が就任している。
3.国家知識財産委員会、「2023年度国家知識財産施行計画(案)」、2023.3.31.
4.半導体・ディスプレイ/2次電池/先端モビリティー/次世代原子力/先端バイオ/宇宙航空・海洋/水素/サイバーセキュリティー/AI/次世代通信/先端ロボット・製造/量子

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