韓国政府は、韓国の国家安保と国民経済に影響を及ぼし得る技術を保護し、当該技術の海外輸出を統制するための様々な制度を運営している。これに関連して最近、「国家先端戦略産業の競争力強化及び保護に関する特別措置法」(以下、「国家先端戦略産業法」)により規制の対象とする「国家先端戦略技術」を具体的に指定する告示とともに、「産業技術の流出防止及び保護に関する法律」(以下、「産業技術保護法」)により規制されている「国家核心技術」の規制適用範囲を拡大し、その管理体系を強化する等の事項を含む改正案の立法予告がなされた。これらの事項を含め、近年整備された上記の制度について紹介する。
1.国家先端戦略技術の指定と規制
近年、先端産業の技術力が当該産業の競争力というだけでなく、国家安保および経済安保に重大な影響を及ぼすようになっている中、韓国の国家先端戦略技術の海外流出を統制し、これを体系的に育成するための制度運営等を内容とする「国家先端戦略産業法」が制定され、2022年8月4日から施行されている。
国家先端戦略産業法によると、物資の供給網の安定化等国家・経済安保に及ぼす影響や、輸出・雇用等国民経済的効果が大きく関連産業に及ぼす波及効果が顕著な技術は、「国家先端戦略技術」に指定して保護し、かかる国家先端戦略技術を研究、開発または商用化する企業は租税の減免等の恩恵および特別支援を受けることができるようになる。加えて、国家先端戦略技術を保有する企業が技術輸出、海外での買収・合併、合同投資等を行う場合には産業通商資源部長官の承認を受けなければならない等、様々な規制が適用されることになる。
これに関連して、産業通商資源部は2023年6月2日、「国家先端戦略技術指定等に関する告示」を制定・告示し、半導体・二次電池・ディスプレイ・バイオの4つの産業分野の合計17の技術を含む国家先端戦略技術を指定した。これにより指定された国家先端戦略技術には産業技術保護法による国家核心技術が多数含まれているが、両者には技術の細部水準等に一部違いがあり、おおむね国家先端戦略技術の方が国家核心技術よりも要求される技術水準が高い。
国家先端戦略産業法に基づき国家先端戦略技術に対して適用される主な規制は、次のとおりである。
■ 輸出および海外買収合併に関する規制
国家先端戦略技術保有者が(1)該当技術を外国企業などに売却または、移転などの方法で輸出しようとする場合、(2)海外引受・合併、合作投資などを行おうとする場合、産業通商資源部長官の承認を受けなければならない。ただし、素材・部品・装備製品それ自体の輸出、および通常、製品輸出に付帯し、国家先端戦略技術が具現可能な水準の細部事項を含まない情報の提供は輸出承認対象から除外される。
一方、国家先端戦略技術に係る知的財産権を海外に譲渡したり、当該知的財産権に関するライセンスを外国企業に付与したり、海外裁判所または国際貿易委員会で行われる特許侵害訴訟等の法的手続きに活用する目的で当該技術に関連する資料を海外に送付したり、または、クラウドサービスに保存された当該技術に対するアクセス権限を外国企業に付与する行為は、国家先端戦略産業法で統制する「輸出」に該当し得る。
■ 国家先端戦略技術に対する保護措置等
国家先端戦略産業法は、国家先端戦略技術の流出を防止するために、国家先端戦略技術の保有者に対して、(1)保護区域の設定・入出許可と入出時の携行品の検査、(2)国家先端戦略技術を取り扱う人材の離職管理および秘密維持等に関する契約締結等の保護措置を取るようにさせている。特に韓国政府は、先端技術および優秀人材の海外流出を防止するために、既存の産業技術保護法に基づき国家核心技術等に要求されていた措置よりも、さらに強化された保護措置や人材管理等を要求する可能性もあり注意を要する。
2. 国家核心技術規制適用範囲の拡大および管理体系の強化等の制度整備
「産業技術保護法」(2007年施行)に基づき、「国家核心技術」(2023年現在、13分野の計75の技術が指定されている。)を保有する企業は、当該技術に対する保護区域の設定、および国家核心技術管理責任者の指定等の保護措置を取らなければならない。さらに、国家核心技術を輸出しようとする場合、または外国人が国家核心技術を保有する企業を買収·合併しようとする場合には、産業通算資源部長官の許可(承認または事前申告)が必要とされる。
これに関連し産業通商資源部は、2023年6月28日、産業技術保護法の規制適用の範囲と国家核心技術の流出·侵害行為の範囲を拡大し、管理体系を強化する内容の産業技術保護法改正案を立法予告した。主な改正事項は以下の通りである。
■ 産業技術保護法の適用範囲を拡大
国家核心技術保護の死角地帯の解消のために、法適用範囲を拡大する。「国家核心技術の輸出」の範囲に、「国内から国外への移転」に加えて、「国内または国外での大韓民国国民から外国人への移転」、「移転された国家核心技術の再移転」も含まれるものとする。さらに、国家核心技術を保有する対象機関の株式等を直接取得する場合だけでなく、外国人の支配下にある国内私募ファンドのように対象機関を支配する法人の株式等を取得し、外国人が対象機関を間接支配することになる場合も海外買収·合併等の範囲に含める。
■ 国家核心技術の管理体系の強化
企業が国家核心技術を保有している可能性が高いと判断される場合に、政府が該当企業に対して国家核心技術を保有しているか否かの判定を事前に受けることを通知する制度を新設し、国家核心技術を保有する機関に登録義務を付与する。制度を履行しない場合、過料が科せられる。
さらに、国家核心技術の輸出等に対する承認または申告受理時に、国家核心技術保護のための条件を付加できる法的根拠を設け、対象機関には付加された条件に対する履行計画を提出させるようにし、条件を履行したか否かについて事後点検を実施できるようにする。また、国家核心技術対象機関に対する海外買収·合併の際において、その対象機関と買収主体である外国人とが共同で承認または申告手続きを行うよう改正する。
その他、国家核心技術流出に関する罰則を強化し、不法海外買収·合併等に対する中止·禁止·原状回復命令を履行しない場合、履行強制金(1日当たり1,000万ウォン)を賦課する等の規定を新設する。
上記の産業技術保護法改正案は、国民の意見募集等の手続きを経て、年内に国会に提出されるものと予想される。
国家先端戦略産業法や産業技術保護法による輸出統制を受ける者は、第一次的には国家先端戦略技術や国家核心技術を保有する韓国企業が該当するが、当該韓国企業から技術移転を受けるかまたは当該韓国企業を買収しようとする外国企業の立場においても、当該技術が規制対象となるのか否かを綿密に検討し、当該韓国企業による輸出または海外買収・合併手続きについて規制履行の遵守がなされているかどうかを確認する必要がある。