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先使用の事実により通常実施権が認められて、特許権侵害が認められなかった事例

2023.11.14

被告の実施製品が特許発明の権利範囲に属していても、被告は先使用による通常実施権を有しているため特許権に基づいた請求は理由がないとされた(特許法院2023.2.2,2021ナ1220)。

 

事実関係

 

原告(特許権者)は、被告が製造、販売するバッテリー検査装備(以下、「被告実施製品」とする)が特許発明の請求項6(以下、「第6項発明」とする)の権利範囲に属するため原告特許権を侵害するとともに、被告は、原告が相当な投資や労力により製作して訴外Sに提供した特許発明の設計図(CAD)ファイルを原告の許諾なしにSとの協力の下で無断で取得し、これをそのまま書き写して被告実施製品を製作、販売したことを理由として、本件の訴えを提起した。

 

特許法院の判断

 

被告実施製品の図面は、Sからの発注の頃すでに完成段階にあることを前提として、その図面を実際に具現した被告実施製品の製作、設置に関する事項を定めるためのものであったと認められるとともに、原告特許の出願前にすでに被告実施製品の該当部品図面が完成しており、被告はエックス線検査装備開発、製造および供給業を営む会社であった点を総合すれば、被告がSから被告実施製品の製作、設置依頼を受けてその設計図面を完成したことは具体的に実施事業の準備ないしその事業をしていたことに該当する。従って第6項発明の出願日である2013年2月28日以前に被告が第6項発明の内容を知らずSから発注を受け、第6項発明の構成要素を全て含む被告実施製品の設計図面を完成し、国内ですでにその実施事業をしているか、又はその準備をしていたと認められることから、被告はその事業の目的範囲内で通常実施権を有するため、被告の先使用による通常実施権の抗弁は理由がある。

 

一方、Sが被告に原告の第6項発明のCADファイルをそのまま渡したことを認めるに足る証拠がなく、被告実施製品はT製品と資料を参照してYによって設計されたものと認められる点、及びT製品は被告実施製品と実質的に同一なだけでなく、原告の第6項発明と同じ構成要素も含む点などを総合すると、被告実施製品は被告がSと協力して原告の第6項発明のCADファイルを無断に取得し、これをそのまま書き写したものであるため先使用による通常実施権は成立しないとする趣旨の原告の主張は受け入れることができない。

 

コメント

 

先使用による通常実施権については、韓国特許法第103条に下記のように規定されている。

 
特許出願時にその特許出願された発明の内容を知らないでその発明をし、又はその発明をした者から知得して国内においてその発明の実施事業をし、又はこれを準備している者は、その実施し、又は準備している発明及び事業目的の範囲において、その特許出願された発明の特許権について通常実施権を有する。

 

本件判決で被告の先使用権が認められた理由については、被告が「被告実施製品の製作、設置依頼を受けて、その設計図面を完成したこと」が、上記の規定において発明の実施事業をし、又はこれを準備していることに該当すると判断されたものであり、これは既存の判例や通説の見解に沿ったものといえる。

ところで本件の事例のように先使用権制度は、どの程度活用が可能であろうか。まず先使用権とは、特許権者の出願前に独自に同じ発明をし、すでに当該発明を事業として実施している人、又は法人に対して一定の範囲内で特許権に該当する発明を無償で実施できるようにする制度であって、この制度を活用すれば、先使用権者は自ら特許権を取得することなく、言い換えれば自己の発明内容を公開することなく、発明を実施する権利を保つことができる。

しかし、これにより他者の特許権侵害に対する防御手段として先使用権を主張する場合には、その自らの実施発明の完成、実施事業の準備、実際の事業の実施などの一連の過程を立証しなければならず、現実的に各実施段階を客観的証拠により具体的に立証することは容易でない場合が少なくない。

以上のようなメリットとデメリットを考慮し、企業として自らの発明内容を出願せず模倣防止のために秘匿してノウハウとして管理する知財戦略を取る場合には、将来的な第三者特許権への抵触の事態に備えて、日常業務の中で先使用権立証のための証拠資料を確実に作成して保存しておくと同時に、そうした資料がいつの時点で作成されたかについて証明できる体制を整えておくことが重要といえる。

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