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ソウル中央地方法院、ワクチン関連特許の実質的保護のために属地主義の適用を緩和して直接侵害を認定

2023.11.14

韓国のソウル中央地方法院は、肺炎球菌ワクチン組成物に関する特許に基づく特許権侵害差止本案事件において2つの製品に対する直接侵害を認定した。具体的には、①国外で構成成分の混合により特許発明が完成され実施されるのに先立って、国内で特許発明実施のための多くの段階が完了して発明の作用効果を具現することができる状態になったのであれば、国内での構成成分生産行為のみでもって特許の直接侵害が認められると判断され、②国内で特許発明を実施して侵害品を生産した者と、その侵害品で国外で研究・試験を遂行した者がそれぞれ異なる場合には、研究・試験を行った者が自分だけのために研究・試験を行ったのに過ぎず、生産者が研究・試験を主管するとか、その結果を自ら享有しなかったのであれば、韓国特許法第96条第1項第1号の研究・試験目的実施による特許権効力制限を生産者にまで認めることはできないとして、生産者による特許侵害を認めた(ソウル中央地方法院2023.8.10.言渡し2020ガハプ591823判決)。

 

事実関係

 

本件特許発明は、Pfizer社の「プレベナー(Prevenar)13」肺炎球菌結合ワクチンに関する発明であり、具体的には「13個の相異なる血清型の肺炎球菌多糖類がCRM197 運搬体タンパク質に個別に結合された形態である13種の多糖類-たんぱく質結合体を含む肺炎球菌ワクチンで用いるための13価免疫原性の組成物」に関する発明である。本件特許侵害差止本案事件が提起されるのに先立ち、本件特許の新規性、進歩性等を争う特許無効審判が提起され、この事件で本件特許は、特許審判院、特許法院、大法院を経てその特許性が認められ有効であることが確定した。これにより大法院で「特許有効」が確定した後、本件特許に基づく侵害差止本案訴訟において法院は、被告が「国内で許可を受けた13価肺炎球菌結合ワクチン」を実施する行為及びその半製品としての「13価バルク溶液」を実施する行為を禁止する和解勧告決定を下した。

同決定により特許発明を国内で実施することができなくなった被告は、ロシアの製薬会社との間で技術移転及び供給契約を締結し、被告は国内で生産した13種の個別血清型多糖類-たんぱく質結合体原液(以下、「13種の結合体原液」)、すなわち13価として混合されていない状態の個別の結合体原液をロシアに供給することとし、当該ロシアの製薬会社が上記の原液をロシアで混合して13価肺炎球菌結合ワクチンを製造できるように、技術移転に協力することとした。さらに被告は、ロシアの製薬会社がロシアで該当医薬品の販売許可を受けられるように臨床試験等に必要な13価肺炎球菌結合ワクチンの完製医薬品を国内で生産してロシアに供給することにした。

 

法院の判断

 

ソウル中央地方法院は、被告が①国内で13種結合体原液を生産した行為と、②国内で13価肺炎球菌結合ワクチン完製医薬品を生産してこれをロシアの製薬会社に臨床試験目的使用のために譲渡した行為が、本件特許を侵害すると判断した。

 

①    被告による13種の個別結合体原液の生産行為について

本件特許発明は13種の結合体が混合された13価免疫原性の組成物に関するもので、13種の結合体原液の混合により特許発明が完成されて実施されるのはロシアであったところ、韓国国内における13種の個別結合体原液の生産のみでも特許侵害が認められるのかが争点となった。

被告は、本件特許の権利範囲が人体に投与可能なように製剤化された13価完製医薬品ワクチンにのみ及ぶことを前提として、ロシアで行われる13種の結合体原液の複雑な混合過程を経てこそ本件特許発明の「免疫原性」が発揮されることから、韓国国内における13種の結合体原液の生産のみでは特許権を侵害しないと主張した。これに対して特許権者である原告は、13価結合ワクチンとして混合された時に免疫原性効果が発揮されるようにするためには、個別の結合体製造段階ですでに決められた適切な製造方法と条件により製造されるべきであることから、被告が13種の結合体原液を生産するのみであっても特許発明を具現するためのすべての工程を国内で遂行したことになると主張した。

これについて法院は、本件特許発明の核心的技術思想を検討し、これを基礎として本件特許権の請求範囲を解釈した。具体的に法院は、本件特許発明の技術思想の核心が「単純に13個の血清型多糖類とCRM197運搬体たんぱく質が組み合さった肺炎球菌多糖類-たんぱく質組成物を発明したことにあるのではなく、かかる組み合わせで作られた肺炎球菌ワクチンが13個の血清型すべてに対して免疫原性を有する多糖類-たんぱく質組成物であることにある」として、十分な免疫原性を現わすためには運搬体たんぱく質の選定だけでなく各個別の血清型多糖類-たんぱく質結合体に一層適合した製造条件を見つけ出すことが必要で、その後の免疫原性を高めるための手段、すなわち、ワクチン組成物の抗原量を増やすことや免疫増強剤等を投与することは本件特許発明とは区別される付随的な手段に過ぎないと判断した。

ソウル中央地方法院は、上記の本件特許発明の技術的思想を基礎として、過去に大法院が提示した法理により、本件被告が国内で13種の結合体原液を生産した行為を本件特許を直接侵害する行為と認めるべきであると判断した。
すなわち、大法院は「医療用糸挿入装置」に関する特許発明の侵害の成否が問題になった事案において被告による特許侵害を認める判決を下している(大法院2019.10.17.言渡し2019ダ222782,222799判決)。この事案で被告は、特許発明の各構成要素を韓国国内で生産し、それぞれを日本の病院に直接輸出するか他国を経由して日本の病院に輸出し、そのうち1つの構成要素である「医療用糸」について特許発明の特徴の一部が欠如したまま輸出された。同事案で大法院は、特許権の属地主義原則上、特許権者が有する独占的な特許実施に関する権利は特許権が登録された国家の領域内だけでその効力が及ぶのが原則であるが、(a)国内で特許発明の実施のための部品又は構成の全部が生産されるか、多くの生産段階を完了して主な構成を全部備えた半製品が生産され、(b)これが1つの主体に輸出され、最後の段階の加工、組み立てが行われることが予定されており、(c)そのような加工、組み立てが極めて些少であるか簡単で、部品全体の生産又は半製品の生産のみでも特許発明の各構成要素が有機的に結合した一体として有する作用効果を具現することができる状態になったとするならば、例外的に国内で特許発明の実施製品が生産されたものと認めることが特許権の実質的保護に符合する」と判示した。これにより大法院は、被告が個別の部品全体を国内で生産しただけであっても、国内で特許発明の各構成要素が有機的に結合した一体として有する作用効果を具現することができる状態になったとものして、侵害を認めた。

 

ソウル中央地方法院は、上記の大法院の法理が「特許権の実質的保護」のためのものとして本件にも適用され得るとして、次の通り判断した。

法院は、(a)被告が生産した本件13種の結合体原液は、本件特許発明の権利範囲に属する組成物原液を製造するための多くの生産段階を完了して「主な構成を全て備えた半製品」に該当するとし、特に結合ワクチンの製造では各血清型結合体の製造方法を確立することが重要であるため、被告が生産した13種の結合体原液はその各々が免疫原性を現わし、そこから作られる組成物原液も免疫原性を現わすように製造されたものであり、本件特許発明の免疫原性は13種の結合体原液を混合しさえすれば直ちに発現することから、13種の結合体原液が特許発明の主な構成を全て備えた半製品に該当し、(b) 13種の結合体原液が1つの主体(ロシアの製薬会社)に輸出され、最後の段階の加工・組み立てが予定されており、(c)本件特許明細書等において13種の結合体原液を「混合」する過程に対して特別な技術的制限を付加しておらず、被告が主張する「混合に必要な複雑な工程」は通常の技術者にとって一般的な内容と認められ、被告がロシアの製薬会社に技術を移転するためにロシアで混合工程を遂行することにおいて技術的難点は見出しにくいと判断していることにより、「最後の段階の加工・組み立てが極めて些少又は簡単で、上記のような部品全体の生産又は半製品の生産のみでも特許発明の各構成要素が有機的に結合した一体として有する作用効果を具現できる状態になった」と判断した。これにより法院は、被告が国内で13種の結合体原液を生産した行為のみでも本件特許を直接侵害すると判断した。

 

②被告が国内で生産してロシアの製薬会社に供給した13価肺炎球菌結合ワクチンについて

被告の生産行為が研究・試験目的の実施であることにより、特許法第96条第1項第1号による特許権の効力制限規定が適用されるか否かが争点となった。
法院は、本件被告と一緒に特許発明を実施した者として研究・試験を遂行したのではない者には、上記の効力制限規定が適用されないと判断した。具体的に法院は、本件で研究・試験を遂行した者が単に自分だけのために研究・試験を遂行し、国内で特許発明を実施した被告はその生産の目的が「第三者に譲渡」することであるだけであり、被告自らが研究・試験の過程を主管するとか、結果を自ら享有しないことから、特許権の効力制限が被告の実施行為には及ばないと判断した。

 

コメント

 

本件は、特許発明に係るワクチン組成物として混合される前段階として、被告が韓国国内で行う13種の結合体原液の実施行為が特許権侵害にあたるか否かが争点となったが、これについてソウル中央地方法院による判決は、過去に大法院で判示した法理に従って特許権の実質的保護のために属地主義の適用を緩和して侵害を認めたものとなった。
ただし、過去の大法院判決は、上述のとおり加工・組み立ての難易度が比較的低い器具・装置発明に対して特許権侵害を認めたものであったところ、本件は同じ法理を生物医薬品発明に対して適用したもので、他の技術分野でも「特許権の実質的保護」が必要な場合には同じ法理が適用される可能性があることを確認したものといえる。これについて本件での法院の判断は、特許発明の技術思想の核心を把握し、特許請求の範囲及び明細書に基づいて「実質的に保護すべき技術思想」が何であるのかを検討した上で、これを基礎として特許侵害判決を下したという点が重要である。これに反して仮に特許権侵害の判断で属地主義を過度に厳格に適用する場合には、本件のように特許発明の技術思想による寄与と効果を実質的に共に享受するような被告の行為に対して特許権の迂回・潜脱を許容することにもなり得るところ、本件判決は、被告が13価ワクチン組成物の製造を禁止した先行の和解勧告決定の効力を回避しながらも特許発明の大部分を韓国国内で実施しようとした行為に対して、法院がこれを許容しないことを示すことで特許権の実質的保護を試みた判決として意義がある。

一方、本件のもう一つの争点は、被告による13価肺炎球菌結合ワクチンの国内実施行為に対して、研究・試験目的の実施による特許権効力の制限規定が適用されるか否かという点であった。これに関する国内法理は明確に確立されていない中、ソウル中央地方法院の判決は、研究・試験目的の実施による特許権効力の制限規定を無分別に拡張して適用しないとした判断の部分に意味があると思われる。
具体的に法院は、制限規定が適用される通常の場合として、特許発明を実施する者が臨床試験を外国研究機関等の第三者機関に委託・提携して自身の利益のために特許発明を実施する場合であれば、特許権効力の制限規定は依然として適用可能であるという見解を取っているものと見られる。しかし、本件のケースでは、被告自らは直接研究・試験を主管することも、その結果を享有することもなく、単に「契約上の供給義務」により侵害品を生産し第三者に供給しているのであって、こうした特許発明の実施者に対しても特許権効力が制限される場合には特許権者の権利が不当に制限される危険性があるとして、法院は、被告の実施行為に対して特許権侵害を認めることで特許権の実質的保護のための判決を下したといえよう。
本件は現在、控訴されて、特許法院で係属中であるため、今後の判断を見守る必要がある。

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