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特許法院、先行発明に出願発明の特性値が内在しているとは認められないという理由により進歩性を認定

2024.02.08

韓国特許法院は、出願発明が限定する組成物の特性値のうち一部が先行発明に開示されていない事案において、当該特性値は多様な因子により影響を受けるものであるため、両発明の組成物の構成成分などに一部共通点があるという事情だけでは、先行発明の組成物に出願発明の特性値が内在しているものとは認められないと判示した(特許法院2023.8.31.言渡し2022ホ5171判決)。

 

事実関係

 

出願発明は、容器栓(Cap)に使用される「ポリマー組成物」に関するもので、その請求項1は組成物の特性として0.950g/cm³ないし0.965g/cm³範囲の密度、少なくとも0.3g/10分の溶融流量MFR2、少なくとも100,000g/molの重量平均分子量、少なくとも20,000Pa·sの0.01[1/s]の角周波数における粘度η0.01、123℃で10分未満の等温結晶化ハーフタイム(Isothermal Crystallization Half-Time)、少なくとも60時間のフルノッチクリープテスト値(Full Notch Creep Test)を限定している。これに対し先行発明1,2は、同じ用途のポリマー組成物に関するもので、その構成成分と含有量が出願発明と共通し、密度、溶融流量MFR2および重量平均分子量の数値範囲が出願発明と重複するが、残りの特性値(粘度、等温結晶化ハーフタイム、フルノッチクリープテスト値)に対しては開示していない。

本件出願は審査過程で先行発明1および2の結合による進歩性欠如を理由として拒絶決定がされ、これを不服として請求された拒絶決定不服審判において特許審判院は次の理由により出願人の請求を棄却した。

 

1.出願発明と実質的に成分および溶融流量指数もしくは溶融流動指数(MFR2)が共通する先行発明1において出願発明の分子量および粘度特性が内在しているということができ、先行発明2と出願発明は重量平均分子量、コモノマーの含有量、溶融流動指数(MFR2)において共通または類似の特性を有しているので、通常の技術者が先行発明1,2の技術内容から出願発明のポリマー組成物が容器栓製品として使用できる特性を発現することができるように重量平均分子量、粘度などの物性を限定する程度は容易に導き出すことができる。

2.出願発明と先行発明1はコモノマーの含有量範囲が共通し、出願発明と先行発明2は重量平均分子量、コモノマーの含有量範囲が共通するため、通常の技術者が先行発明1,2から容器栓用として使用するのに適合したポリマー組成物の性能評価のために、等温結晶化ハーフタイム(ICHT)とフルノッチクリープテスト値(FNCT)の限定事項を容易に導き出すことができる。

3.効果においても、出願発明のポリマー組成物が容器の栓用材料として適合した効果を有するということは通常の技術者が先行発明1,2から十分に予測することができる。

出願人は特許審判院の審決を不服とし、特許法院に審決取消訴訟を提起した。

 

特許法院の判断

 

特許法院は、出願発明と先行発明1の差異点について、1) 「少なくとも100,000g/molの重量平均分子量」に関する差異点は通常の技術者が先行発明1に先行発明2を結合して容易に克服することができるが、2)「少なくとも20,000Pa·sの粘度」、「123℃で10分未満の等温結晶化ハーフタイム」および「少なくとも60時間のフルノッチクリープテスト値」に関する差異点は下記の理由により先行発明1に先行発明2を結合したとしても容易に克服できるものとは認めがたいと判断した。

 

1.「少なくとも20,000Pa·sの粘度」に対して

1) 先行発明1および2のいずれにも、ポリマー組成物が出願発明と同じ「少なくとも20,000Pa・s」の粘度(η0.01)を有することについては開示されていない。

2) 甲第11,12号証論文、乙第2号証学術誌によると、高分子の粘度は重量平均分子量(Mw)だけでなく分子量分布(MWD)、高分子鎖の長鎖分岐(Long Chain Branching:LCB)含有量などの様々な因子により影響を受けて決定されるということが分かり、出願発明のポリマー組成物と先行発明1および2のポリマー組成物は重量平均分子量や溶融流量が共通するからといって、その粘度まで共通すると見ることはできない。

3) 出願明細書の実施例を参照しても、実施例3,4と比較例1では、ポリマー組成物の溶融流量((MFR2)において何ら差がないが実施例3,4の方が比較例1に比べてさらに高い粘度(η0.01)値を示しており、また、実施例1~5ではポリマー組成物の分子量(Mw)と粘度(η0.01)が比例するものでもないので、出願発明においてポリマー組成物の粘度が必ずしも重量平均分子量や溶融流量によって決定されるとは認めにくい。

4) 出願発明と同じエチレンホモポリマーおよびエチレンコポリマーを含むポリマー組成物において、ポリマー組成物の粘度(η0.01)が「少なくとも20,000Pa・s」であることがこの技術分野においてポリマー組成物の通常の粘度範囲であると認めるだけの証拠もない。

 

2.「123℃で10分未満の等温結晶化ハーフタイム(ICHT)」および「少なくとも60時間のフルノッチクリープテスト値(FNCT)」について

1) 出願発明においてポリマー組成物の等温結晶化ハーフタイムおよびフルノッチクリープテスト値に対する数値範囲は、互いに均衡をなし、キャップでの高い応力亀裂抵抗性、速いサイクル時間および優秀な流動性を達成させる技術的意義を有する。

2) 先行発明1および2のいずれにも、ポリマー組成物が出願発明と同じ「123℃で10分未満の等温結晶化ハーフタイム」および「少なくとも60時間のフルノッチクリープテスト値」を同時に有することについては開示されていない。

3) 甲第12,13,14号証論文によれば、高分子の等温結晶化ハーフタイムは主に粘度に影響を受けるものであり、フルノッチクリープテストで測定される環境応力亀裂抵抗性(ESCR)は重量平均分子量(Mw)だけでなく分子量分布(MWD)、コモノマーの含有量と分布、高分子鎖の長鎖分岐(LCB)含有量などの様々な因子により影響されて決定されることが分かる。したがって出願発明のポリマー組成物と先行発明1および2のポリマー組成物は、重量平均分子量や溶融流量、コモノマーの含有量が共通するからといってその等温結晶化ハーフタイム(ICHT)およびフルノッチクリープテスト値(FNCT)まで共通すると見ることはできない。

4) 出願発明と同じエチレンホモポリマーおよびエチレンコポリマーを含むポリマー組成物において、「123℃で10分未満の等温結晶化ハーフタイム」および「少なくとも60時間のフルノッチクリープテスト値」を同時に有することが、この技術分野においてポリマー組成物の通常の物理的特性だといえるだけの証拠もない。

 

以上により、特許法院は、先行発明の組成物に出願発明の粘度、等温結晶化ハーフタイム、フルノッチクリープテスト値の特性値が内在していると認めにくいため、出願発明の進歩性は先行発明1および2の結合によって否定されないと判断した。

 

コメント

 

材料等の特性を数値範囲で限定した発明では、その発明の特性値自体は先行発明に具体的に開示されていなかったとしても、両発明で材料の組成や他の特性値が共通するなどの理由から先行発明に当該特性値が内在していると判断し進歩性を否定することは実務上よく見られている。このため、本事案でも審査および審判の段階では、出願発明の特性値が先行発明に内在しているという理由により進歩性が否定された。

これに対し特許法院は本判決において当該特性値の先行発明への内在性を否定したところ、その判断の根拠としては、まず先行発明に具体的に開示されていない出願発明の各特性値の技術的意義を検討し、当該特性値はいかなる因子により影響を受けるかを具体的に審理した上で、出願発明の組成物は先行発明の組成物との間で一部共通点があるといっても、出願発明の当該特性値は様々な因子により影響を受けるため先行発明の組成物に内在しているとは認められないと判断したものである。

こうした法院の判断を得るために出願人は、争点となった出願発明の特性値が、先行発明に開示された組成物において非開示の別要因によっても影響を受けるという点を、様々な論文、学術誌などの証拠を提示して積極的に立証しており、このような各種証拠の提示が出願発明の進歩性が認められるのに功を奏したものと考えられる。かかる進歩性の立証方法は、出願発明の構成が先行文献に内在しているか否かが争点になる場合に参考にできる。すなわち出願人は出願発明の当該構成の技術的意義を具体的に説明した上で、論文等の技術文献を提示しながら当該構成に影響を与える要因が何であるのかを客観的に立証することによって、当該構成が先行文献には内在していないことを技術的に主張することも、特許戦略上有効だと思われる。

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