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職務発明に関する最近の法改正 ~使用者の職務発明承継要件の緩和、資料提出命令制度の導入~

2024.05.24

近年、韓国では職務発明補償金請求訴訟が次々に起こされている中、2024年1月9日、発明振興法の一部改正案が国会本会議で可決された。本改正法は2024年2月6日に政府により公布され、2024年8月7日から施行される予定。主な改正内容は、使用者の職務発明承継要件を緩和し、職務発明補償金訴訟における資料提出命令制度を導入するもので、下記のとおり。

 

1. 使用者の職務発明承継要件の緩和

 

現行の発明振興法では、使用者が従業員から職務発明に対する権利を承継する契約や勤務規定が存在する場合であっても、使用者が当該権利を承継するためには、大統領令で定める期間(職務発明の申告を受けた後4カ月)内に職務発明に対する権利の承継について従業員に書面で通知しなければならないとされ、このため承継通知前において、不確定な権利関係により従業員が第三者に職務発明に対する権利を承継した場合等に二重譲渡の問題が発生するおそれがあった。

改正法では、従業員から職務発明完成の事実の通知を受けた使用者が従業員と協議して職務発明に対する権利を承継する契約や勤務規定を予め定めた場合、職務発明に対する権利は、発明が完成した時から使用者に自動で承継されるように規定し、例外的に使用者が職務発明に対する権利を承継しないこととする場合には、4カ月以内に従業員に通知することとされた(改正法第13条第1項)。

ただし、職務発明に対する権利を承継する契約や勤務規定がない使用者が職務発明完成の事実の通知を受けた場合には、使用者が当該権利を承継するためには、これまでと同様に4カ月以内に発明に対する権利承継の意思を従業員に書面で知らせなければならず、この場合、使用者は、従業員の意思と異なって職務発明に対する権利の承継を主張することはできない(改正法第13条第2項)。

上記の第13条改正規定は、改正法の施行後、すなわち2024年8月7日以降に完成した職務発明から適用され、その前に完成した職務発明に対しては現行法が適用される。

 

2. 法院が職務発明の補償金算定に必要な資料提出を命じることを可能とする根拠規定の導入

 

現行の発明振興法では、職務発明の補償金に関する訴訟において、判決に必要な証拠資料を提出するように当事者を誘導するための法院の資料提出命令や秘密維持命令制度について規定しておらず、営業秘密等の理由により当事者が証拠資料を提出しない場合、合理的な補償金算定のための審理を進めることが難しいという批判があった。

改正法は、法院が当事者の申立てにより相手方当事者に対して補償額算定に必要な資料の提出を命じることができるようにする資料提出命令規定(改正法第55条の8)を新設し、これに対して相手方当事者の秘密保護の観点から秘密維持命令規定(改正法第55条の9~11)も併せて新設した。関連条項の主な内容は下記のとおりであり、本改正規定は改正法施行後、すなわちに2024年8月7日以降に提起された職務発明補償金に対する訴訟から適用される。

 

-    法院は職務発明補償金に関する訴訟において、当事者の申立てにより相手方当事者に対して補償額算定に必要な資料の提出を命じることができるが、資料の所持者がその資料の提出を拒絶する正当な理由がある場合には、この限りではない。(改正法第55条の8第1項)
-    法院は、資料の所持者が資料の提出を拒絶する正当な理由があると主張する場合には、その主張の要請を判断するために資料の提示を命じることができ、この場合、法院は、その資料を他人が見られるようにしてはならない。(改正法第55条の8第2項)
-    当該資料が営業秘密に該当する場合であっても、職務発明補償額の算定に必須の場合には、資料の提出を拒絶する正当な理由とみなさない。(改正法第55条の8第3項)
-    これに関連し、法院は職務発明補償金に関する訴訟において、当事者の申立てにより決定をもって、営業秘密を訴訟の継続的な遂行以外の目的に使用し又は第三者に公開しないことを命じることができる。(改正法第55条の9)

 

以上のとおり、今回の改正発明振興法は、使用者にとって職務発明に対する権利承継要件を緩和することで使用者の利便性を改善する一方、職務発明の補償金算定に必要な資料の提出を法院が命じることができる根拠規定を設けて従業員の利便性も改善する方向で改正された。

本改正に伴い、職務発明に対する権利を承継する契約や勤務規定を導入していない海外企業の韓国支社や子会社等においては、これを新たに導入すべき必要性が高まるといえるとともに、既に関連契約や勤務規定を導入している場合にも、今回の改正に合わせてこれを再度検討および見直す必要性があるものと思われる。

一方、職務発明補償金請求訴訟の場面では資料提出命令及び秘密維持命令制度も新たに導入されることから、韓国での職務発明が活発になされ関連訴訟が予想される場合には、関連訴訟の遂行にあたって本改正の影響を十分考慮する必要がある。

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