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特許法院、韓国内生産侵害品の海外販売に対して約120億ウォンの損害賠償を認定

2024.05.24

特許法院は、被告が原告の認知症治療剤である「イクセロンパッチ(リバスチグミン)」の特許権を侵害したと判断し、120億ウォンの損害賠償の支払いを命じた。本判決は、原告が特許存続期間の延長を承認された後も、被告が該当製品を生産し、ヨーロッパに輸出したことに起因するものである(特許法院2024.1.18.言渡し2021ナ1787判決)。

 

韓国特許法上の損害賠償推定規定の意義と実務

 

韓国特許法は、特許権者が「侵害がなかったとすれば販売できた数量」、すなわち消極的損害額を証明することは難しいという点を考慮し、その特則として特許法第128条として損害賠償の推定規定を設けている。具体的に、特許法第128条第2項は「侵害者の販売数量」に「特許権者の製品の単位数量当たりの利益額」を掛け合わせる規定により、同条第4項は「侵害者が侵害で得た利益」を損害額として算定する規定により、各損害額を推定している。

しかし、従来の韓国法院は、特許法第128条第2項、第4項などの推定規定を適用するよりかは、弁論全体の趣旨と証拠調査の結果に基づき法院の裁量によって損害額を算定する第7項の規定を適用する場合が多かったところ、これは特許権者の保護のための推定規定の立法趣旨にそぐわないと見る意見があった。ただし、米国式ディスカバリー制度が導入されていない韓国の裁判環境では、侵害者が損害算定関連資料の提出を拒否した場合には特許権者として立証資料の入手が困難な場合が多いことから、こうした損害額算定の状況になっていたものと考えられる。

上記第4項の推定規定を適用した事例として、韓国大法院は、2006年、レーザープリンタの感光ドラム関連特許侵害に関するいわゆる「キヤノン判決」において韓国国内で生産された侵害製品を米国に輸出して利益を得た点に対して損害賠償を認め、互いの競業関係などにより損害発生の憂慮ないし可能性があったとして、現行特許法第128条第4項(旧特許法第128条第2項)を適用して損害額を算定した(大法院2006.10.12.言渡し2006ダ1831判決)。

この判決から約18年が過ぎ、本件は、特許法院において特許を侵害する韓国国内生産製品の海外販売およびそれに対する損害賠償に関して、特許法第128条第4項等を根拠として原告(特許権者)の請求を認容し、約121億ウォンおよびその遅延利子相当の損害を認めた事例であった。

 

事件の概要

 

原告の特許は、リバスチグミン経皮投与用法を提供する発明で、これを活用したノバルティスの「イクセロンパッチ」は世界初のパッチ型アルツハイマー型痴呆治療剤ある。「イクセロンパッチ」は、痴呆患者が定時に定量の薬を服用しにくいという問題を解決する画期的な医薬品として市場で注目を浴び、2007年の発売以降、全世界的に大々的な商業的成功を収めている。

特許権者であるノバルティスは持株会社であり、直・間接的に100%の持分を所有する各国法人(韓国ノバルティスを含む)を通じてイクセロンパッチを海外各国で販売した。被告は韓国国内でイクセロンパッチのジェネリック製品を製造し、そのうちの大部分をヨーロッパなどの海外各国に輸出した。これに対しノバルティスは、こうした被告の特許侵害行為の差止めおよび損害賠償請求の訴えを提起した。

 

法院の判断

 

特許法院は、侵害行為と損害発生間の因果関係に関連して、被告が原告製品の代替品である侵害製品を生産して特許侵害をし、侵害製品をヨーロッパ各国で販売して原告のヨーロッパ販売法人の製品の売り上げが減少したため、ノバルティスの企業集団支配構造などを考慮したとき、持株会社である原告がヨーロッパ販売法人から配当利益などを得られないことになるなどの損害を被ったことが認められたとして、因果関係があるものと判断した。

さらに特許法院は、特許法第128条第4項(侵害者の利益額推定)により損害を算定して、侵害製品の海外総販売収益から侵害製品の製造・販売のための追加投入費用を控除した貢献利益(contribution margin)を「侵害行為で得た利益額」として算定した。法院は、追加投入費用(変動費)を直接的な証拠によって算定することは難しいとしながらも、こうした貢献利益を算定する信頼性のある統計として、国税庁法人税申告者料に基づいて分析された韓国銀行(日本銀行に相当)の企業経営分析資料上の「医療用物質および医薬品」に関する変動費対売上額の割合を考慮して、客観的な資料に基づき侵害者の利益額の立証における空白を補完した。

一方、特許法第128条第2項の適用については、損害算定時に「侵害者の販売数量」を活用し「単位数量当たりの利益額」は特許権者のものに基づくことになるところ、本件において完全子会社であるヨーロッパ販売法人の売り上げ減少による損害額が原告の損害額と同一だと認めることができる特別な事情が証明されない限り、ヨーロッパ販売会社の単位数量当たりの利益額を原告の単位数量当たりの利益額としてそのまま置き換えることができないため、本規定の適用は困難であると判断した。

 

コメント

 

本判決は、韓国国内で生産された特許侵害品の全部または一部が海外に輸出されて販売された場合、特許権者の立場において海外販売による損害も特許法第128条第4項により請求することができることとされたものである。ただし本判決については、特許権者として親会社が全体持分を保有する完全子会社の売り上げ減少による損害は直ちに原告の損害と評価され得るものであるとして、特許法第128条第2項に基づく損害算定を考慮することも可能であったとも考えられる。

上述の「韓国特許法上の損害賠償推定規定の意義と実務」で触れているとおり、特許法第128条第2項、第4項の損害賠償推定規定の趣旨は、特許権者を保護するために設けられたものである。これに加えて、今年8月から施行される改正特許法は故意的特許権侵害行為による懲罰的賠償額の上限を3倍から5倍に引き上げるものであるところ、これもまた特許権者保護を強化するためのものである。しかし、韓国では依然として特許侵害訴訟の実務上、侵害者が資料の提出をしない場合において、特許権者または法院が侵害者に直接強制して損害立証の証拠を提出させることは容易でない。このため法院は文書提出命令や事実照会、釈明権などを積極的に行使し、侵害者の資料に代わり得る程度の信憑性のある客観的資料あるいは特許権者の資料に基づいて損害額の判断をするなど、より柔軟な損害算定方式を模索することが必要とされている。

本件において一審判決は、特許法第128条第7項(法院の裁量による損害額算定)を適用して、損害額を約25億ウォンと認定したが、今回の特許法院判決では、第128条第4項を適用して一審が認めた損害額の約5倍相当の金額を損害額として認定したものとなった。このように法院で特許法第128条第2項、第4項を積極的に適用して、特許権者の資料、または韓国銀行のような公信力のある機関の資料などを基礎にして損害賠償額を算定することが可能であれば、侵害者の立場としても資料提出を回避するよりかは損害額を減らすために積極的に自ら資料を提出するようになり、結果として、侵害立証という好循環をもたらすことが期待できるといえる。

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