韓国特許法院は、無効審決の確定後に請求された新たな無効審判において提出された証拠が既提出の証拠とは重複せず全て異なる事案において、新たに提出された証拠は確定審決の結論を覆すほどの有力な証拠に該当しないため、本件審判請求は確定審決と同一事実及び同一証拠による審判請求であるとして一事不再理の原則に違反し不適法であると判断した(特許法院2023.6.8.言渡し2021ホ4485判決)。
事実関係
(1) 本件特許発明は「建築物の油式·空気圧式ケーブル張力調節装置」に関するもので、請求の範囲は独立項である請求項1を含め計5つの請求項からなる。原告は本件特許の全請求項は比較対象発明により進歩性が否定されるという理由で無効審判を請求したが棄却され、その審決がそのまま確定した(以下「従前確定審決」)。その後、原告は確定審決での比較対象発明とは全て異なる先行文献を証拠として提出し、無効審判を再度請求した。
(2) 特許審判院は、本件請求項1、2、3、5の発明については先行発明によって容易に発明することができ進歩性がないとして無効と判断した。一方、本件請求項4に対しては「原告が新たに提出した先行発明は、本件請求項4の発明と関連しては従前確定審決を覆すほどの有力な証拠ではないため、本件請求項4の発明に対する審判請求は従前確定審決と同一事実及び同一証拠によるもので一事不再理の原則に違反して不適法である。」という理由により却下する審決を下した。これに対し原告は、請求項4に対する却下審決に対して審決取消訴訟を提起した。
(3) 本件特許の請求項4は請求項1の従属項であって、その特徴部分は「シリンダ本体(110)の後段にネジ結合部(116)が形成されて固定カバー(210)がネジ結合され、固定カバー(210)の内側に固定ナット(220)が装着されて作動部材(140)に形成されたネジ結合部(146)にネジ結合で固定状態が維持されるようにした構成で、作動部材(140)の張力調節状態が維持されるようにする」ことにある。
本件特許の図3(部分のみ)
(4) これに対して原告は、従前確定審決での無効証拠とは全く異なる先行発明1、2、4を提出し、先行発明1又は2に先行発明4を結合して本件特許の請求項4を容易に導き出すことができる旨を主張した。
特許法院の判断
特許法院は次の理由により、先行発明1又は先行発明2と、先行発明4のロックナット構成との結合が容易であると判断した。
① 本件請求項4の発明は、固定カバー(210)をシリンダー本体(110)に、固定ナット(220)を作動部材(140)に各々ネジ結合することにより、作動部材(140)が回転する場合でも固定ナット(220)が回転するだけで固定カバー(210)は回転せず、その結果、作動部材の進退が遮られ移動が制限されるため、張力がそのまま維持される効果を有する。
先行発明1はロッキングナット(38)がテンドンと結合したピストンにネジ結合し、先行発明2はナット(14')が引張部材にネジ結合して張力を維持する機能をする。しかし、テンドン又は引張部材が回転すると、ネジ結合されたロッキングナット(38)又はナット(14')が共に回転して、テンドンの場合は下方に、引張部材の場合は中間コネクタの外側に移動するため、張力を維持することができない。
先行発明1の図3(部分) 先行発明2の図4(部分)
先行発明4は、バレルのハブにある孔にロッドを挿入してバレルを回転させることで、左右のヘッドに連結されたシャンクがバレル中心部に向かって引っ張られるようにする機械式サドル装置である。ロックナット(17)がシャンク及びバレルの端部にネジ結合されて張力を維持する機能をするが、外力によってシャンクが緩む場合(すなわちシャンクがバレルの外部に進出するように回転する場合)、ロックナット(17)も一緒に回転するので、張力を維持することができない。
先行発明4の図6
このように先行発明1、2、4は、テンドン、引張部材、シャンクが回転する場合に張力を維持できないという点で、本件請求項4の発明と先行発明の技術的課題及び作用効果が同一であると認めることができない。
② 先行発明1、2には、外力などによって作動部材が回転する場合に張力が維持されないという問題点に関する認識及び先行発明4のロックナット構成を結合しようとする動機が示されていない。
③ 先行発明1に先行発明4のロックナット(17)を結合し、又は先行発明2に先行発明4のロックナット(17)を結合して本件請求項4の発明に至るためには、相当な構造変更(※判決文中の詳細な説明は省略)が要求されるが、その結合が容易であるとは認められない。
以上のとおり、本件請求項4の発明は、先行発明1又は先行発明2と先行発明4の結合によっても進歩性が否定されない。先行発明1、2、4は従前確定審決の結論を覆すことができるほどの有力な証拠に該当しないので、本件の審判請求は、従前確定審決と同一事実および同一証拠による審判請求として特許法第163条に規定された一事不再理の原則に違反して不適当である。本件の審決はこれと結論を同じくし、適法である。
コメント
一事不再理の原則に対して、韓国特許法第163条は「この法律による審判の審決が確定したときは、その事件については、何人も、同一の事実および同一の証拠に基づいて再び審判を請求することができない。」と規定しており、これに違反した場合、当該審判請求は不適法として却下される。ここでの「同一証拠」について、韓国大法院は「以前に確定された審決の証拠と同一の証拠だけでなく、その審決を覆すほどの有力でない証拠が付加されることも含む」と判示したことがある(大法院2005.3.11.言渡し2004フ42判決)。
本件において無効審判の請求人は既に確定した無効審決の証拠とは全て異なる新たな証拠を提示しており、これについて特許法院では、新たな証拠が確定審決を覆すことができるものであるか否かかを判断するため、本案に関する実質的判断を先行して進歩性なしの判断をまずしている。これに基づき、当該証拠は確定審決の結論を覆すことができるほどの有力な証拠には該当しないという理由で「同一証拠」の範囲に含むと判断しているところ、これは上記の大法院判例の趣旨のように「同一証拠」の意味を広く解釈したものと思われる。
その一方、別の特許法院判例(特許法院2021.11.25.言渡し2021ホ3680の判決)では、「先行の確定した審決の証拠とは全く重複することなしに新たな証拠のみが提出された場合で、その証拠のみにより先行の確定審決を変更できない場合において、同一の証拠に該当すると解釈するのは、同一証拠の範囲を過度に拡張解釈したもので、文言の可能な解釈の範囲を超える」として、今回の特許法院判決とは異なる趣旨で判断した判決もある。
以上のように、韓国での一事不再理に関する「同一証拠」の解釈については、本件判決とは異なる趣旨の判決も存在している状況であり、今後も類似の事件における法院の判断を注視していく必要がある。