韓国において新物質を有効成分として最初に品目許可を受けた医薬品に対しては、医薬品許可等により実施できなかった期間の分だけ特許権の存続期間延長登録が可能であり、この場合の新物質は、韓国特許法施行令で「薬効を示す活性部分の化学構造が新たな物質」と定義されている。韓国大法院は、既に許可された「インターフェロンベータ1a」にポリエチレングリコール(PEG)を共有結合してPEG化(PEGylation)した「ペグインターフェロンベータ1a」が新物質に該当するか否かが問題となった事案において、「薬効を示す活性部分」はインターフェロンベータ1aであって、ペグインターフェロンベータ1aは「薬効を示す活性部分」と認めることができず新物質に該当しないとして、これに基づく延長登録は許容されないと判示した(大法院2024.7.25.言渡し2021ㇷ11070判決)。
事実関係
本件特許発明は、生物学的活性化合物とコンジュゲートされる残基を有するポリアルキレングリコールに関するもので、関連医薬品に対し2016年7月11日に医薬品輸入品目許可を受けている(「許可医薬品」という)。
一方、これに先立つ2009年4月22日には、有効成分を「インターフェロンベータ1a」とする医薬品について食品医薬品安全処長から輸入品目許可を受けていた(「既許可医薬品」という)ところ、本件特許発明に係る許可医薬品は、インターフェロンベータ1aにPEGを共有結合してPEG化した「ペグインターフェロンベータ1a」を有効成分とするものであった。
特許法施行令第7条第1号は、許可等による延長登録出願の対象発明の一つとして、「特許発明を実施するために薬事法第31条第2項·第3項又は第42条第1項により品目許可を受けた医薬品[新物質(薬効を示す活性部分の化学構造が新しい物質をいう)を有効成分として製造した医薬品として初めて品目許可を受けた医薬品に限る]の発明」を規定している。
原告は許可医薬品に基づいて存続期間延長登録出願をしたが、特許庁は許可医薬品と既許可医薬品は共に再発性多発性硬化症治療剤としてその適応症が同一であり、これに対する治療効果を示す活性部分が「インターフェロンベータ1a」で同一であって新物質に該当しないため、特許法施行令第7条の延長登録出願対象ではない旨により延長登録出願に対して拒絶決定を維持する決定をした。
出願人はこれを不服として、特許法院に審決取消訴訟を提起した。特許法院は、上記施行令の条項中「薬効を示す活性部分」の解釈について、許可医薬品において薬効を示す活性部分は「ペグインターフェロンベータ1a」であって活性部分を「インターフェロンベータ1a」とする既許可医薬品とは異なり、上記施行令の条項で定めた新物質を有効成分として製造した医薬品に該当すると判断し審決を取り消した。
具体的な原審の判決理由は次のとおりである。
(1) 上記施行令条項の「薬効を示す活性部分」において、「薬効」は適応症に限定されず、「医薬品の成分中に内在する薬理作用により特定疾病を診断·治療·軽減·処置又は予防する効果」を意味する。この時、特定の疾病を診断·治療·軽減·処置若しくは予防する効果の大小及び持続時間の程度、効果に付随して発生する副作用の有無に差がある場合には「薬効」が同一であると認めることはできない。
(2) ペグインターフェロンベータ1aがインターフェロンベータ1aに対して有する生物学的活性および薬動学的特性の差は、結果的に許可医薬品の再発性多発硬化症に対する治療効果の増大をもたらし、上記のような生物学的活性の差異、薬動学的特性の改善、治療効果の増大は、いずれもインターフェロンベータ1aにポリエチレングリコールが結合されることによって現れる効果である。したがって、許可医薬品の成分中に内在する薬理作用によって再発性多発性硬化症を治療する効果を示す部分は「ペグインターフェロンベータ1a」であり、「インターフェロンベータ1a」部分に限定されると認めることはできない。
特許庁は、特許法院の判決を不服として大法院に上告した。
大法院の判断
まず大法院は、上記施行令条項における「薬効を示す活性部分」は「医薬品の有効成分中、活性を有しながら内在する薬理作用により医薬品品目許可上の効能·効果を示す部分」を意味すると判断した。また大法院は、それ自体では活性を有しない部分が従来の品目許可がされた医薬品の「薬効を示す活性部分」に結合されて医薬品の効能·効果の程度に影響を及ぼすとしても、これは医薬品の効能·効果としての「薬効」を示す部分ではないため、このような部分が「薬効を示す活性部分」に結合されているという事情だけでその結合物全体を上記施行令の条項でいう「薬効を示す活性部分」と認めることはできないと判断した。
具体的な判断根拠は以下のとおりである。
(1) 薬事法令の内容を総合すると、医薬品が示す効果としての「薬効」は「医薬品が特定疾病を診断·治療·軽減·処置又は予防する効果」と理解でき、このような効果の有効性は医薬品の品目許可対象である「効能·効果」として検討·管理されているので、結局、薬事法上、品目許可を受けた医薬品に関して適用される上記施行令条項でいう「薬効」は特定疾患名又は症状名を基準とする医薬品品目許可対象としての「効能·効果」を意味すると見ることができる。
(2) 上記施行令の条項は、薬事法上、品目許可を受けた医薬品の「有効成分」が新物質であることを要求し、その新物質を「薬効を示す活性部分」の化学構造が新たな物質と定義し、文言上「薬効を示す活性部分」と「有効成分」を区分する規定形式をとりながら、化学構造が新物質であることを要求する対象は「有効成分」ではなく「薬効を示す活性部分」と明示している。ところで、薬理学的に「活性」は薬物が人体内の細胞等に作用して生体機能に変化を起こす性質をいい、「薬効」は特定疾患名等を基準とする医薬品品目許可対象としての「効能·効果」を意味するため、「薬効を示す活性部分」は「人体内の細胞等に作用して医薬品品目許可上の効能·効果を発現する部分」と解釈するのが合理的である。上記施行令条項は、このような部分の化学構造が新しい物質を有効成分とする医薬品の発明を、有効性·安全性等の試験により長期間が要される発明として、特許権の存続期間延長対象となる発明と規定したものである。
(3)「医薬品の品目許可·届出·審査規定」第2条第1号は、「有効成分」を、「内在する薬理作用により、その医薬品の効能·効果を直接若しくは間接的に発現すると期待される物質又は物質群であり、主成分をいう。」と規定しているところ、「有効成分」は分子単位で把握されるので、「薬効を示す活性部分」に該当しない部分が「薬効を示す活性部分」に結合され医薬品の効能·効果の程度に影響を及ぼす場合にも、その全体成分の概念が含まれる可能性がある。しかし、上記施行令条項の規定形式と内容が「有効成分」と「薬効を示す活性部分」を峻別している以上、それ自体では活性を有しない部分が「薬効を示す活性部分」に結合されて医薬品の効能·効果の程度に影響を及ぼしたとしても、その結合物全体を上記施行令条項でいう「薬効を示す活性部分」と認めることはできない。
(4)医薬品品目許可等のために必要な有効性·安全性等の試験により長期間を要する発明に限り、これを救済するよう定めている特許権存続期間延長制度の趣旨及び目的に照らしてみても、既に品目許可がされた医薬品の公知となった活性部分が発現する効能·効果の程度に影響を及ぼすためにそれ自体では活性を有さない部分を付加した医薬品発明は、特許権存続期間延長対象となる発明とは認め難い。
続いて大法院は、本件の許可医薬品は、上記施行令の条項でいう「薬効を示す活性部分の化学構造が新たな物質である新物質を有効成分として製造した医薬品」ではないので、その医薬品の発明である請求項は、許可等による特許権存続期間の延長対象発明に該当しないと判断し、原審判決を破棄して事件を特許法院に差し戻した。
その具体的な判断根拠は以下のとおりである。
(1) 許可医薬品は、既許可医薬品の有効成分であり薬効を示す活性部分であるインターフェロンベータ1aにポリエチレングリコールを結合してPEG化することにより既許可医薬品と同じ効能·効果である再発性多発性硬化症の治療効果を有しながらもインターフェロンベータ1aの血液中の平均滞留時間および半減期を増加させた医薬品であり、その有効成分はペグインターフェロンベータ1aである。
(2) 許可医薬品の有効成分のうち、体内活性を有し再発性多発性硬化症の治療効果を示す部分はインターフェロンベータ1aであり、インターフェロンベータ1aに結合されたポリエチレングリコール部分は体内活性や治療効果を持たずにインターフェロンベータ1a部分が血液中に長く滞留するようにするなど、インターフェロンベータ1aの活性程度に影響を及ぼす部分に過ぎない。したがって、許可医薬品の有効成分のうち「薬効を示す活性部分」はインターフェロンベータ1aであり、ポリエチレングリコール部分が「薬効を示す活性部分」であるインターフェロンベータ1aに結合されたとしても、その結合物全体であるペグインターフェロンベータ1aを上記施行令条項でいう「薬効を示す活性部分」と認めることはできない。
(3)インターフェロンベータ1aをペグインターフェロンベータ1aにPEG化する過程で、インターフェロンベータ1aの立体的化学構造に変化が誘発されたことが直接的に確認されず、また、再発性多発硬化症の治療に関連する活性の差が、インターフェロンベータ1aの立体的化学構造の変化を伴わずには示されないという程度に達するものとは認められないため、許可医薬品において「薬効を示す活性部分」であるインターフェロンベータ1aの部分が「医薬品」である。
コメント
医薬品特許の存続期間延長登録の対象となる新物質の認定範囲に関して、韓国の特許法及びその施行令等では、「薬効を示す活性部分」の定義やその具体的な範囲については規定していない。
これに関して本件で特許法院は、「薬効」の意味を適応症に限らずに相対的に広く解釈し、治療効果の大小及び持続時間の程度、効果に付随して発生する副作用の有無に差がある場合も「薬効」が異なるものとしている。その上で、PEG化薬物は、適用症に対する治療効果は同一であるとしても生物学的活性及び薬動学的特性の差があるとし、「薬効を示す活性部分」はPEG化薬物全体であるため、既許可医薬品の有効成分である「インターペロンベータ-1」にPEGを共有結合させPEG化した「ペグインターフェロンベータ1a」を新物質として判断した。
しかし大法院は、①「薬効」は特定疾患名又は症状名を基準とする医薬品品目許可対象としての「効能·効果」を意味し、②「薬効を示す活性部分」は「有効成分」と区別されるもので、「医薬品の有効成分のうち活性を持ちながら内在した薬理作用によって医薬品品目許可上の効能·効果を示す部分」と限定的に解釈した。これに基づき、本件医薬品の有効成分である「ペグインターフェロンベータ1a」のうち、PEG部分を除いた「インターフェロンベータ1a」だけが「薬効を示す活性部分」に該当すると判断し、ペグインターフェロンベータ1aは新物質として認めなかった。
本大法院判決は、医薬品特許の存続期間延長登録の対象となる新物質の定義として、「薬効を示す活性部分」の意味についての見解を明確に示した点で意義がある。特に本件は、韓国特許庁でも大きな関心を集め、かつ上告審まで進んだ事件であることから、韓国特許庁での存続期間延長登録出願に対する審査実務にも本判決の内容が反映されるものと見られる。すなわち、本判決で「有効成分」と区別して「薬効を示す活性部分」の意味を厳格に解釈したことを考慮すると、今後の審査実務では生物学的活性および薬動学的特性が改善された改良薬物の特許権存続期間延長が認められにくくなる可能性が考えられる。したがって本大法院判決は、医薬業界における今後の医薬品開発及び特許戦略の樹立において考慮する必要があろう。