韓国特許庁における特許・実用新案審査事務取扱規程が改正され、2025年1月1日付で施行された。
特許・実用新案審査事務取扱規程(以下、「審査事務取扱規程」)は、特許出願及び実用新案登録出願に関する審査事務の取扱基準を、韓国特許庁の訓令として規定したものである。今回の改正では、分割出願の審査順の変更など、出願に関する実務に影響する内容が含まれており、主な内容は下記のとおりである。
1.分割出願の審査順を、分割出願の審査請求日に従って審査するように変更
改正前の審査事務取扱規程では、分割出願の審査順について、原出願の審査請求の順に従って審査すると規定していた。改正された審査事務取扱規程では、分割出願の審査順について、(原出願ではなく)分割出願の審査請求順に従って審査するように変更された。
また、改正前の審査事務取扱規程では、分割出願の審査着手時期を分割出願の審査請求日から12ヵ月以内として規定していたが、この規定が今回の改正で削除された。
韓国特許庁は、本改正の趣旨を、一般出願の審査処理期間を短縮するためであると明らかにしている。本改正による実務上の影響は、下記のとおり予想される。
①従来に比べて分割出願の審査着手時期が遅延
本改正により、一般出願と分割出願を区分せずに審査請求の順に従って審査することになるため、分割出願の場合であっても審査着手までに17ヵ月程度かかるものと予想される(※17ヵ月は、2024年10月を基準として審査着手までにかかった期間)。これに関連し、従来は原出願の拒絶査定不服審判請求等の際に行う予備的な分割出願において、(審査官によっては)早期に拒絶理由が通知されることがあったが、こうしたケースがなくなるものと予想される。
②分割出願の審査結果が出る時期の予測が容易に
改正前の審査事務取扱規程においては審査官の審査着手時期が不明確であったことから審査結果が出る時期を予測することが困難な傾向があったが、本改正によって審査官の審査着手時期が明確になることから、審査結果が出る時期についての予測の容易性も高まるものと予想される。
③分割出願が繰り返されるたびに権利の存続期間が短くなる可能性が高い
分割出願の審査請求順に従って審査を行う結果として、分割出願が繰り返されるたびに後の世代の分割出願は、従来に比べ権利の存続期間が短くなる可能性が高いと予想される。
④分割出願の優先審査
原出願で優先審査を申請している場合には、分割出願でも同様の理由で優先審査を申請することは従来と同じく可能であるため、分割出願での優先審査申請を活用して審査着手時期を調節する案も考えられる(原出願の優先審査申請とは別途に、分割出願が独自に優先審査要件を満たす場合にも、同様に優先審査申請が可能である)。
本改正内容は、既に改正前の審査事務取扱規程によって審査に関する処理期間が付与された出願に対しても適用される。
2.PPHによる優先審査出願の審査着手までの期間が変更
PPHによる優先審査出願の審査着手までの期間に関し、改正前の審査事務取扱規程では、優先審査決定日から4ヵ月と規定されていたが、改正された審査事務取扱規程では、優先審査決定日から3ヵ月へと変更された。これにより、PPHによる優先審査出願に対しては、より迅速に審査結果が出るものと予想される。
本改正内容は、施行日以降に優先審査申請された件より適用される。
以上のように今回の改正によって、分割出願の場合には審査着手時期が従来よりも遅くなるため、その分だけ迅速な権利化が難しくなるものと見込まれる。したがって、韓国での分割出願を行うに際しては、その審査請求時期や優先審査制度の活用等も考慮して、権利化戦略を検討する必要がある。