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特許法院、故意の特許権侵害に対して懲罰的損害賠償を初めて認定

2025.02.18

韓国の特許法院において、故意による特許権侵害行為に対し特許法上の懲罰的損害賠償規定(第128条第8項)を初めて適用した控訴審判決が下された。本判決は、同じく特許法第128条第8項を適用して損害額の増額を認めた判決(釜山地方法院2023.10.4.言渡し2023ガハップ42160判決)に対する控訴審判決(特許法院2024.10.31.言渡し2023ナ11276判決)であり、2024年11月26日に確定した。

 

事実関係及び争点

 

本判決の事案は、原告企業が被告企業による真空鍋関連の特許侵害に対し損害賠償を請求した事件である。原告は被告の侵害行為が故意でなされたことを主張し、特許侵害行為が故意的なものと認められる場合に損害額の3倍(なお、その後さらに法改正されて2024年8月21日から施行されている現行特許法では、増額賠償の上限を3倍から5倍に引き上げている)を超えない範囲で賠償額を増額できる旨の規定である特許法第128条第8項が適用されるべきであると主張した。

被告は2015年11月30日から2022年10月31日までの間に侵害行為を継続したが、法改正されて2019年7月9日から施行された旧特許法附則第3条は「第128条第8項1 及び第9項2 の改正規定は本法の施行後、最初に違反行為が発生した場合から適用する。」と規定しているところ、侵害行為が上記施行日を跨いで発生した場合に上記附則の規定をどのように解釈するかが問題になっった。

従来の解釈では、施行日前に侵害行為があった場合には施行日以降に侵害行為が続いていた場合でも増額賠償の規定が適用できないとする見解(以下「解釈論①」)と、施行前の侵害行為については増額賠償の規定は適用されず、施行後最初に発生した侵害行為から増額賠償の規定が適用されるとする見解(以下「解釈論②」)があったところ、既存の下級審事件の多くは解釈論①が採択されて増額賠償規定の適用が否定されていた。こうした中、本判決の第一審(釜山地方法院2023.10.4.言渡し2023ガハップ42160判決)判決で初めて解釈論②を採択し、施行日以降の侵害行為に対する増額賠償規定の適用を認めた。

 

特許法院の判断

 

特許法院による本判決も、第一審と同様に解釈論②に基づいて、2019年7月9日以降に行われた被告の侵害行為に対して増額賠償規定が適用されると判断3 した。すなわち本判決は、旧特許法附則第3条が「侵害行為の性格(施行後における最初の侵害行為であること)を限定する規定ではなく、増額賠償規定が適用される侵害行為の範囲(施行後最初に発生した侵害行為から適用)を限定する規定」であると解釈した。

 

特許法院は、このような解釈について次のような根拠を提示した。

1) 増額賠償規定は、懲罰的性格の損害賠償を賦課できるようにして侵害行為の発生を抑制し、特許権又は専用実施権侵害による被害救済を強化する趣旨の規定である。

2)包括一罪に関する大法院の判例によると、ⅰ)個々の犯罪行為が法改正の前後にわたって行われた場合には、新·旧法の法定刑に対する軽重を比較してみる必要もなく、(犯罪行為全体に対して)新法を適用すべきであり、ただし、ⅱ)その表現や刑量に関する改正を行う場合ではなく、そもそも罪にならなかった行為を構成要件の新設により包括一罪の処罰対象とする場合には、新設された包括一罪の処罰法規が施行される前の行為に対しては、新設された法規を適用して処罰することができない(すなわち、施行日以降の行為に対してのみ新法を適用すべきである)。このような法理に照らしてみると、解釈論①は上記のⅰ)とⅱ)のいずれにも該当せず、処罰規定新設時の包括一罪の処罰範囲に関する法理に合致しない。

3)さらに、原告が増額賠償規定の施行後の期間の侵害行為のみを特定して増額賠償請求をする場合、附則第3条を解釈論①のように解釈するのであれば、被告は自身の侵害行為が施行後の最初の侵害ではないという点(施行前に侵害行為があったという点)を抗弁事由として主張できるという結論に至ることになるが、このような結論は原告が問題視していない侵害行為を被告自ら侵害行為と主張することで増額賠償の適用を免れることができるという側面でも妥当ではない。

4)増額賠償規定の施行前後において侵害行為を継続してきた者の違法性は、増額賠償規定が施行された後、最初に侵害行為を始めた者の違法性より大きいにもかかわらず、後者に対しては増額賠償規定を適用し、前者に対しては免除するということは、違法性の大きい故意的な侵害行為に関して懲罰的損害賠償を課して侵害行為を抑制し、被害者救済を強化するという増額賠償規定の立法趣旨及び法益均衡にそぐわない。

5) 附則第3条の文言上においても「第128条第8項及び第9項の改正規定は、本法の施行後最初に違反行為が生じた場合に適用する。」ではなく、「第128条第8項及び第9項の改正規定は、本法の施行後最初に違反行為が発生した場合から適用する。」と規定されており、解釈論①のように増額賠償規定が適用されるための侵害行為の性格を限定する趣旨と解釈するよりは、解釈論②のように増額賠償規定が適用される侵害行為の範囲を限定する趣旨と解釈するのが自然である。

 

コメント

 

本判決は、増額賠償規定(特許法第128条第8,9項)と共に導入された旧特許法附則第3条の解釈に関連し、侵害行為が増額賠償規定の施行日(2019年7月9日)の前後を跨いで発生していたとしても、施行後に最初に発生した侵害行為については増額賠償規定が適用されると判断した初の確定判決として大きな意味がある。一方で、2024年8月21日から施行されている現行の特許法では、増額賠償の限度が当初の3倍から5倍に引き上げられており、故意侵害に対してより強力な制裁を課そうとする立法的な動きがなされている。本判決で増額賠償規定の解釈論を明示したことと併せて、これらは韓国において特許権の保護を一層強化する動きであると評価できる。
今後も韓国の法院は、本判決を契機とした上で、増額賠償規定の適用における故意侵害の成否や、増額賠償額の算定についての判断基準をより明確に提示していくことが期待される。

 


1   [特許法第128条第8項]法院は、他人の特許権又は専用実施権を侵害した行為が故意的なものと認められるときは、第1項にかかわらず、第2項から第7項までの規定により損害と認められた金額の5倍を超えない範囲において賠償額を定めることができる。
 
2   [特許法第128条第9項]第8項による賠償額を判断する際には、次の各号の事項を考慮しなければならない。 
1. 侵害行為をした者の優越的地位の有無
2. 故意又は損害の発生のおそれを認識した程度
3. 侵害行為により特許権者及び専用実施権者が被った被害規模
4. 侵害行為によって侵害した者が得た経済的利益
5. 侵害行為の期間·回数等
6. 侵害行為による罰金
7. 侵害行為をした者の財産状態
8. 侵害行為をした者の被害救済努力の程度
 
3  本判決で損害賠償額は、故意侵害期間における損害賠償額1億7,585万ウォン(当該期間の損害額約8,793万ウォンの2倍に増額)を含めて、8億5,066万ウォンと認定された。

 

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