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特許法院、特許無効事件と権利範囲確認事件で特許権者が請求範囲の解釈について異なる主張をしても禁反言の原則に反しないと判断

2025.02.18

韓国の特許法院は、無効審判及びその審決取消訴訟の段階で特許権者が行った特許権の請求範囲の解釈の主張について、その内容及び範囲を異にする主張を同一特許発明に対する後続の権利範囲確認事件で行ったという事情だけでは、禁反言原則又は信義則に違反する行為とは認められないと判断した(特許法院2023.11.30.言渡し2023ホ11593判決)。

 

事実関係

 

1)被告は原告特許に対して2021年8月9日付で特許審判院に無効審判を請求したが棄却審決となり、これを不服とした被告は2021年12月28日付で特許法院に審決取消訴訟を提起したところ、請求棄却判決がなされて確定した。

2)その後、原告は同一特許について2022年12月30日付で特許審判院に「確認対象発明は本件請求項1及び請求項2の発明の権利範囲に属する」旨を主張して被告に対して本件積極的権利範囲確認審判を請求し、特許審判院は「確認対象発明は本件請求項1及び請求項2の発明とは同一又は均等の関係にないため、その権利範囲に属さない」という理由で本件審判請求を棄却する審決を下した。原告はこれを不服として、2023年5月2日付で特許法院に審決取消訴訟を提起した。

3)審決取消訴訟において原告は、本件請求項1の請求範囲において「リンクが連携部に遊動性があるように締結」されるというのは、文言そのまま「リンクが連携部とその間に間隙又は裕隔を有することでリンクが回動できるよう遊動性があるように締結されること」と解釈すべきであるところ、上記審決はこの部分を「遠心連動体のリンクが駆動体の連携部内で上下には小さな間隙程度のみ自由に相対的に移動でき、前後には何の制限なく自由に相対的に移動することができるように締結されていること」と制限的に解釈し、確認対象発明が本件請求項1及び請求項2の発明の権利範囲に含まれないと判断したため違法であると主張した。

4)これに対して被告は、本件特許発明に関する無効審判当時に、原告は本件請求項1の発明における「リンクが連携部に遊動性があるように締結」という構成の意味に関して「リンクが長孔形態の連携部の内側を往復しながら動く構成」と説明して長孔形態ではない円形の連携部を意図的に排除して解釈したことがあり、また、上記の無効審判に関する審決取消訴訟当時に原告は「リンク直線往復運動の作動過程でスプリング力が駆動体に垂直方向のみに伝えられる」という点を本件特許発明の技術的特徴として強調し、円形である連携部は本件特許発明の請求範囲に含まれないと明確に主張したことがあるが、それにも関わらず原告は本件において、このような円形の連携部までが本件特許発明の権利範囲に含まれるという矛盾する主張を展開しており、これは禁反言の原則及び信義則に違反するため許容されないと主張した。

 

特許法院の判断

 

1)民事訴訟手続きでも信義則は適用されるべきである(民事訴訟法第1条第2項)。 訴訟手続き上において当事者の一方が一定の主張を提出する等の訴訟行為をし、相手側の当事者がその行為を信頼してそれを前提として当該訴訟上の法的地位を決めた後で、信頼を提供した当事者が従来の態度とは矛盾する挙動をした場合、そのような挙動を容認することになれば相手方の訴訟上の地位が不当に不利になり得る。訴訟手続きにおいて当事者の矛盾した主張が手続きの安定性を害し訴訟手続きを濫用するものと判断される時には信義則が適用され得る。

しかし民事訴訟において当事者は自身の利益を守るために可能な全ての法的主張を提出できるのが原則であって、特に証拠調査の結果に合わせて主張を変更する必要性が生じることもあることから当事者が自ら行った訴訟行為を後に取消・変更することを許容する必要があり、自白の拘束力(民事訴訟法第288条)や時機に遅れた攻撃・防御方法(民事訴訟法第149条)に該当しない以上は弁論終結時まで争点に対する主張を変更することもできるため、実体的真実発見という民事訴訟の目標との調和を図るためには訴訟上の矛盾した主張に対して信義則を適用することは最大限慎重である必要がある。

したがって信義誠実の原則に背くという理由で当事者の訴訟上の主張を許容しないものと言うためには、その主張に関連して相手方に信義を供与する、又は、客観的に見て相手方が信義を抱くことが正当な状態であるといえなければならず、このような相手方の信義に反して矛盾した主張をすることが正義観念に照らして容認できない程度の状態に至るべきである。このような法理は民事訴訟法を準用する行政訴訟手続きでもそのまま適用される。

 

2)原告が同一特許に対する先行の無効事件で行った請求範囲の解釈に関する主張に対して、その内容及び範囲を異にする主張を後続の権利範囲確認事件で行ったという事情だけでは、禁反言原則又は信義則に違反する行為と認めることはできない。具体的な理由は下記のとおりである。

①先行の無効事件において両当事者は各々の自らの立場から請求範囲の解釈に関連して自身に有利な法律的主張を行っただけであって、原告が行った請求範囲の解釈関連の主張は、今後その解釈を超える範囲に対しては権利行使をしないという信義を相手方に供与したものと認めるほどの事情はない。また、原告の主張が正当なものとして被告が信頼したとか、又は原告が請求範囲の解釈に関して主張を変えないという点について、被告が正当な信頼を抱くことになったと認める根拠もない。

②同一当事者が同一特許権に対する無効事件と権利範囲事件において請求範囲の解釈を異にして主張することが適切でないという点は明らかである。しかし、法院はそれに関する当事者の主張に拘束されないところ、特許権者が無効事件と侵害事件で請求範囲の解釈について異なる主張をすることを信義則違反により許容されないとするのであれば、従前の訴訟における原告の主張に事実上拘束力を認める結果になり得るため妥当ではない。

③特許権者が侵害訴訟等において、出願過程での請求範囲の補正や開陳、特許登録後の訂正等で意識的に除外する意思を表明したことと矛盾するように広い権利範囲を主張することが禁反言原則によって許容されない場合があるが、訴訟過程における当事者による特定の請求範囲の解釈の主張がその主張を超える部分を特許権の権利範囲から意識的に除外しようとする対世的な意志表示であると断定することはできないだけでなく、出願経過禁反言の重要な理論的根拠のうちの一つは審査過程及び訂正手続き等が特許権の保護範囲を公示していることから特許侵害回避のために審査経過等を信頼した者の信頼を保護すべきであるという点にあるところ、訴訟過程における特許権者の主張にこのような信頼が付与されるとか特許権者の主張が特許権の保護範囲を公示する役割をすると認める根拠もないことから、訴訟手続きにおける当事者の主張に出願経過禁反言の原則をそのまま適用することはできない。

 

コメント

 

本件において特許法院は、同一特許に対する異なる事件(特許無効事件と権利範囲確認事件)において特許権者である原告が請求範囲の解釈について矛盾した主張をしたという事情だけでは、禁反言原則又は信義則に違反する行為とは認められないと判示している。その理由については、信義則の適用に関する一般原則を考慮した上で、①従前の無効事件における原告の主張により被告が正当な信頼を抱くようになったわけではない点、②矛盾した主張といってもこれを信義則違反で許容しないというのは従前の事件における原告の主張に対して事実上の拘束力を認める結果を招くため妥当ではない点、③訴訟手続きでの当事者の主張に対しては、特許権の保護範囲が公示されることにより認定される出願経過に伴う禁反言の原則をそのまま適用することはできないという点を挙げている。

本件に類似する判決としては、別々の訴訟で矛盾した主張をしたという点だけで直ちに信義則や禁反言の原則に反するものではないとした趣旨の事例があり、たとえば「原告が以前の訴訟とは異なる矛盾した主張を本件訴訟で行うとしても、両訴訟は訴訟物が異なるだけでなく、そのような主張は証拠によって立証される時にだけ受け入れられるため、原告の上記のような主張が信義則に反するということはできない」(特許法院2006.12.29.言渡し2006ホ4147判決)とした事例や、「被告が別の侵害訴訟事件で本件訴訟での主張と相反する主張をした事実があるという事情だけで、被告による本件訴訟での主張が禁反言の原則に反するということはできない」(特許法院2012.2.2.言渡し2011ホ7492判決)とした事例がある。

本件判決は、請求範囲の解釈に関連して出願過程での補正や登録後の訂正は登録公報等を通じて第三者に公示されるが、それとは異なり審判や訴訟中の当事者の主張は、それだけで相手方が正当な信頼を抱くようになる根拠にはならないとしていて、かかる本件判決は上記2つの類似判決とも軌を一にして妥当であると思われる。ただし本判決は、審判や訴訟手続きにおいて他の事件に矛盾する主張を無制限に認める趣旨ではない点については留意する必要がある。

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