本件は、海外法人である被告人会社の従業員が、韓国において被害会社の産業技術及び営業秘密を無断に取得して流出させた行為に対し、「産業技術の流出防止及び保護に関する法律」違反及び「不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律」違反の疑いで起訴された事案である。大法院は、犯罪実行行為の重要部分(謀議、無断閲覧、搬出)が韓国領域内で行われたことから、両罰規定が適用される被告人会社もまた韓国領域内で罪を犯したものとして裁判権が成立すると判断し、被告人会社への処罰(罰金刑)を言い渡した。(大法院2025.8.14.言渡し2022ド8664判決)。
事実関係
原審法院と大法院が認めた主な事実関係は、次のとおりである。

本件の核心争点は、次に示すとおり、従業員の技術流出行為の相当部分が韓国領域外(台湾等)で行われた場合、両罰規定(行為者と法人間の不可分的関連性)により処罰を受ける法人に対して韓国の法院が裁判権を有するかどうかであった1 。
1. 核心争点:法人に対する韓国裁判権の有無
従業員の産業技術及び営業秘密流出行為の実行が国外で相当部分行われた場合、両罰規定(第38条、第19条)により処罰される被告人会社(法人)に対し、刑法第2条及び第8条を適用して韓国の法院が裁判権を有するか。
2. 関連法理争点(両罰規定の解釈)
両罰規定により処罰される行為者(従業員)と法人間の関係をどのように解釈するのか、すなわち双方の行為が内容上不可分的関連性を持つかどうか。
法院の判断
大法院による裁判権認定の論理(両罰規定の適用)は、次のとおりである。
1. 行為者と法人間の不可分的関連性:両罰規定により処罰される行為者と法人の間には、行為者が犯した法規違反行為が事業主(法人)の法規違反行為に対して事実関係が同一、又は、少なくとも重要部分を共有するという点で内容上不可分的関連性を有するので裁判権の判断時にこの点を考慮すべきである。
2. 従業員行為の裁判権:従業員の漏洩・取得等に対する意志の合致、産業技術及び営業秘密閲覧・撮影、営業秘密の無断流出行為は韓国の領域内で行われたので、たとえ流出・公開・使用行為が国外で行われたとしても、従業員は韓国領域内で罪を犯したと認められる
3. 法人に対する裁判権の成立:従業員の違反行為は、両罰規定が適用される被告人会社の犯罪構成要件の行為の一部に該当する。したがって従業員が韓国で罪を犯したと認められる以上、被告人会社も韓国領域内で罪を犯したと見るのが妥当である
4.結論:原審が、被告人会社に対し刑法第2条(韓国領域内の罪)及び第8条により大韓民国刑罰規定が適用され、韓国の裁判権があると判断したことは正当である。
コメント
近年、産業技術や営業秘密の流出が国境を跨いで行われるケースが後を絶たないが、本判決はそうした技術流出事件において国際的裁判権の範囲を明確にしたものであり、次のような重要な示唆点がある。
1. 両罰規定適用の広範囲性:法人が技術流出で処罰を受けるためには行為者(従業員)の行為と法人の行為間に内容上不可分的関連性が要求される。本判決は従業員の犯罪行為が国内で始まったのであれば、たとえ最終的な不法使用が国外で発生したとしても、その開始点をもって法人の裁判権成立要件を満たすと認めている。
2. 国内行為の重要性:技術流出において技術の獲得、閲覧、撮影、無断搬出等の犯罪構成要件行為の重要部分が国内で行われたのであれば、その後の国外流出及び活用行為と関係なく韓国刑法第2条(属地主義)が適用されることを再確認している。
3. 技術流出初期段階に対する厳格な法適用:本判決は、企業が技術流出防止のために退職前後の職員のシステムアクセス及び資料搬出行為を徹底して管理すべきであると示唆しており、犯罪謀議や初期データ獲得行為の事実だけをもって法人に対する刑事責任が成立する可能性もあるので注意が必要である。
本件は旧「産業技術の流出防止及び保護に関する法律」及び旧「不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律」の違反行為に関する事案ではあるが、上述した核心的な判断は刑法第2条(韓国領域内の罪)の解釈に従ったものであった。その内容は、昨今の社会問題ともいえる経済犯罪、特に営業秘密及び産業技術流出の行為が連続的かつ国境を跨ぐ犯罪において、犯罪行為の特定の一部が国内で実行されたとすれば犯罪全体が国内で行われたものとして、韓国の司法管轄を認める属地主義の拡張された解釈を示したものであるといえる。本件大法院判決は、国際的な技術流出に実効的に対応するための法的基盤を強化する役割を果たすものと解釈できる。
1 その他の法理争点(上告理由)としては、被告人会社は公訴事実の特定、公訴状一本主義、「産業技術」及び「営業秘密」の定義の誤解、両罰規定の適用(行為の責任と自己責任原則違反の主張)、罪刑法定主義、無罪推定の原則等に関する法理を誤解したことが主張されたが、大法院はこれらを全部排斥した。




