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PEG化薬品は新物質であるため、医薬品許可に基づく特許権存続期間の延長登録が許容される

2022.02.24

韓国の特許法上において、発明の実施に許可官庁の許可(日本の承認に該当)が必要となる医薬品に関する特許は、該当医薬品許可に基づいて1回の延長が可能である。ここで延長登録を可能とする医薬品許可の要件は、2013年の特許法施行令改正によって「新物質(薬効を示す活性部分の化学構造が新しい物質)を有効成分とする最初の許可」に限定されることとなった。これによると、該当医薬品の有効成分が新物質であるか否かと、同一物質に対しての先行許可があるか否かによって、延長登録の可否が決定される。本事件で特許法院は、ペグインターフェロンベータ-1a[蛋白質であるインターフェロンベータ-1aのN-末端アミノ酸残基に20kDaのポリエチレングリコール(PEG)が共有結合された薬品]は新物質に該当するため、延長登録が可能であると判断した(特許法院2021.9.30.判決言渡し2020ホ4129判決。現在、大法院上告審が進行中)。

 

事件の概要と争点

 

特許権者は、ペグインターフェロンベータ-1aを有効成分とするプレグリディの医薬品輸入許可(許可日2016.7.11)に基づいて、上記有効成分をカバーする対象特許に対し85日の存続期間を延長する存続期間延長登録出願をした。特許庁は、プレグリディの許可前にアボネックスの有効成分:インターフェロンベータ-1a、許可日時:2009.4.22)の許可があったところ、2つの医薬品は共に適応症が再発性多発性硬化症治療剤で同一であり、治療効果を現わす活性部分がインターフェロンベータ-1aで同一であるので、プレグリディの許可は、特許法施行令第7条(以下「施行令」)の新物質を有効成分とする最初の許可ではないとの理由で上記の延長登録出願を拒絶決定した。特許権者の拒絶決定不服審判請求に対して、特許審判院も同じ理由で棄却審決を下した。特許権者は、これを不服として特許法院に審決取消訴訟を提起した。

本事件の争点は、PEG化(Pegylation:PEGまたはこの変形された誘導体を、蛋白質高分子等の生理活性物質の特定部位に共有結合させる工程)薬品であるペグインターフェロンベータ-1aが、PEG化されていない薬品のインターフェロンベータ-1aに対して、施行令で規定している新物質、すなわち薬効を現わす活性部分の化学構造が新しい物質と認定されるか否かであった。

 

関連法令および被告(特許庁)の主張

本事件の延長登録出願に関連する特許法および特許法施行令の関連法令は、下記のとおりである。

 

第89条(許可等による特許権の存続期間の延長)
① 特許発明を実施するために他の法令により許可を受け、又は登録等をしなければならず、その許可又は登録等(以下「許可等」という)のために必要な有効性・安全性等の試験により長期間を要する大統領令で定める発明である場合には、第88条第1項にかかわらず、その実施することができなかった期間について5年の期間までその特許権の存続期間を1回のみ延長することができる。(以下略)

特許法施行令第7条(許可等にともなう特許権の存続期間の延長登録出願対象発明) 
法第89条第1項で「大統領令で定める発明」とは次の各号のいずれかに該当する発明をいう。
1.    特許発明を実施するために「薬事法」第31条第2項・第3項又は第42条第1項により品目許可を受けた医薬品[新物質(薬効を現わす活性部分の化学構造が新しい物質をいう。以下、本条で同じ)を有効性分として製造した医薬品であって、最初に品目許可を受けた医薬品に限定する]の発明(以下略)

 

被告は、下記の点を挙げてペグインターフェロンベータ-1aで薬効を現わす活性部分はインターフェロンベータ-1aであるため、ペグインターフェロンベータ-1aは施行令の新物質ではないと主張した。

(1)特許発明の技術分野において高分子-薬物接合体であるPEG化物質は、薬品伝達システムとして製剤または剤形に準ずるものとして認識されるだけで、新物質とは認識されない。

(2)施行令で「薬効」は「適応症」と同一の意味で解釈しなければならず、PEGは体内で不活性である点、PEG化による半減期増大、安定性向上の効果が共に既に知られている効果に過ぎない点、PEG化によりインターフェロンベータ-1aの活性部分の3次元的立体構造に変化が誘発され、または、薬効に関連した活性の差が顕著に優秀な程度ではない点を考慮すれば、ペグインターフェロンベータ-1aにおいて再発性多発性硬化症治療効果を現わす活性部分はインターフェロンベータ-1a部分である。

 

特許法院の判断 

 

特許法院は、ペグインターフェロンベータ-1aが施行令の新物質と判断し、これについて(1)まず、施行令条項の「薬効」の意味は何か、(2)これにより、本件医薬品の「薬効」を現わす活性部分が何であるか、(3)ペグインターフェロンベータ-1aが既に許可された物質と比較して「新物質」であるか否かの順で判断した。 

(1)特許法院は、施行令の条項の薬効の意味について被告の主張とは異なる解釈により、適応症に限定されると解釈することはできないとし、「薬効」の辞典での意味および薬事法での「医薬品」の定義規定等に照らして「医薬品の成分のうち内在する薬理作用によって特定の疾病を診断・治療・軽減・処置または予防する効果」を意味するとより広く解釈することにより、本件医薬品で適応症以外のペグインターフェロンベータ1-aの多様な薬理作用を検討した。

 

(2)すなわち、特許法院は、ペグインターフェロンベータ1-aはインターフェロンベータ1-aに比べて生物学的活性(抗ウイルス活性、抗増殖活性、抗血管形成活性等)で差があり、薬動学的特性(除去率減少、平均滞留時間、半減期、生体利用率の増加等)が顕著に改善されたところ、上記のようなペグインターフェロンベータ1-aの生物学的活性および薬動学的特性は結果的に再発性多発性硬化症に治療効果の増大をもたらしたと見られると判断した。これにより、上記のような生物学的活性の差、薬動学的特性の改善、薬効の増大が全てインターフェロンベータ1-aにPEGが接合されることによって現れる効果であるため、内在する薬理作用によって再発性多発性硬化症を治療する効果を現わす部分は「ペグインターフェロンベータ1-a」とした。

特許法院の上記判断には、①PEG化関連技術に対してPEG自体のみでは体内で不活性であったとしても、PEGは薬品の薬力学と薬動学の特性間の均衡を変更して薬品の生体内効能を変更し、薬力学-薬動学プロフィールの結果的な変化は薬品の改善された治療効能を提供するという点、②ヨーロッパEMEAのプレグリディ検討結果報告書でインターフェロンベータ-1aとペグインターフェロンベータ-1aの1型インターフェロン受容体に対する結合力の差は付着したPEGによって影響を受け得ると記載されていること等に照らして、「インターフェロンベータ-1a」ではない、インターフェロンベータ-1aにPEGが接合された「ペグインターフェロンベータ-1a」の状態で受容体に結びつき、その結合力等において「インターフェロンベータ-1a」に接合された「PEG」が影響を及ぼすという点が考慮され、これにより、特許法院はPEG部分も細胞活性を現わす部分に該当すると判断した。

さらに、特許法院は、医薬品の薬効がPEG-蛋白質接合技術に関して既に知られているところにより予測可能で「インターフェロンベータ-1a」と比較して立体構造が変わったとは見にくいという被告の主張は、施行令条項にそのような事情が考慮されることを要求していないという理由で退けた。

 

(3)続いて、特許法院は、ペグインターフェロンベータ-1aは既に品目許可を受けた医薬品と比較して相異する治療効果を現わす部分の化学構造が新たな物質である新物質に該当すると見るのが相当であると判断した。この特許法院の判断には、先立って言及されたペグインターフェロンベータ-1aのPEG化に起因する治療効果の差とともに、通常の技術者がインターフェロンベータ-1aのPEG化を通じて容易にペグインターフェロンベータ-1aを開発することができると認めることも難しい点も考慮された。具体的に、特許法院は、30年余りの間、PEG化技術に対する活発な研究と開発がなされたが、PEG化医薬品で許可を受けた事例はわずか20件余りに過ぎないという点、接合されるPEGの種類、PEGの結合部位、PEGの分子量、蛋白質に結びついたPEGの個数等によりPEG化の結果が変わったりもするという点等について言及し、PEG化の期待される利点を達成するためには長期間の実験研究と臨床試験が必要だと思われ、上記のような長期間の実験、研究、臨床等を実際に遂行する前まではPEG化医薬品の成功の可能性および効果等が簡単に予測されると認めることもできないとしてPEG化技術の困難さを認めた。

 

コメント

 

韓国における特許権存続期間の延長登録要件は、2013年の特許法施行令改正により定められたものである。この改正の趣旨は、新しい化学物質(New Chemical Entity;NCE)の開発は、より長期にわたる時間と費用が要求されるため、そうした新しい物質についてのみ延長を許容するアメリカおよびヨーロッパと同一の延長登録要件を導入することであった。すなわち新薬の物質特許のみを特許権存続期間の延長対象と認定し、公知物質の用途・製剤特許は延長対象と認定しないことにより、アメリカ・ヨーロッパの制度と一致させることが法改正の目的であるという当時の特許庁の説明だった。

これに関連し、PEG化薬品は特許法施行令に規定する「新物質」であるかという問題がある。実際、本件では、薬品であるペグインターフェロンベータ-1aは、アメリカとヨーロッパでは先に許可されたインターフェロンベータ-1aの存在にかかわらず特許が延長されたが、韓国の特許庁および特許審判院では新物質ではないとして延長登録を不可と判断した。

一方で、過去の特許審判院の審決には、PEG化物質として好中球減少症に使われる薬品であるペグテオグラスティムに対して延長登録を認めたことがあった。ペグテオグラスティムはG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)に2個の突然変異を有することによって蛋白質に変形があり、このうちの一つにPEGが共有結合されていたところ、特許審判院は、突然変異が影響を及ぼしG-CSF受容体と結合する部分の高次構造が変化して優秀な生物学的活性を現わすことから、G-CSFの先行許可にかかわらずペグテオグラスティムは新物質だと判断した(特許審判院2018.4.9.2015ウォン5239)。

この審決とは反対に、本件で特許審判院は、蛋白質部分の変形なしでPEGのみ共有結合された本件のPEG化薬品は新物質と認めることができないという見解に至ったと考えられる。これに対し特許法院は、PEG化技術の困難さを認めて施行令の新物質の定義のうち「薬効」の意味を広く解釈し、PEG化による多様な生物学的活性および薬動学的活性の差がもたらされ得るという点を挙げて、蛋白質の部分の変形がないPEG化薬品も新物質だと判断した。

なお、特許法院において延長登録が可能な新物質であるか否かを判断した事例としては、先行許可物質(トレチノイン)に対してトランス幾何異性体である物質(アリトレチノイン)が適応症も異なり新物質であることを肯定した事例がある(特許法院2017.12.21.言渡し2016ホ9011判決)。本件は特許法院が新物質に関して判断した2番目の事例であった。特許法院の判決に対して被告が上告したため、今後の大法院の判断を見守る必要がある。また、本件のように、施行令改正後の延長登録において新物質であるか否かについては、今後も多様な判決が出てくるものと予想される。判決の事例が蓄積されることによって判断基準も次第に確立されていくであろう。

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