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特許出願前に発明を公開する場合、特許を受けることができる権利者はその権利を守るために何をすべきか

2022.02.24

原告(無効審判被請求人)は、「自動車番号板装着用プレート」に関する発明の特許権者である。原告は、出願前に、上記発明の生産に利用される金型の納品契約(秘密維持約定を含む)をDと締結した後、上記の金型で生産した発明の試作品700個を「検収用」名目でDに供給した。Dは、上記試作品をその職員や知人等に有償または無償で提供して自動車に装着させ、上記試作品が装着された自動車の写真もオンライン動画共有サイト、インターネットブログ等に掲載されたため、上記の発明は出願前に公知となった。上記の発明はその出願前に公知となったという理由により請求された無効審判で無効審決が下され、その審決取消訴訟で原告は上記の公知が権利者の意思に反した公知であるため新規性喪失の例外に該当すると主張したところ、特許法院は、原告は試作品700個をDに提供した当時に秘密維持義務がない第三者に試作品を提供して公開することを容認していたため、上記の公知は権利者の意思に反した公知と見ることができないという理由で特許発明の新規性を否定した。(特許法院2021.8.21.言渡し2020ホ4990判決)

 

事件の経過

原告は、出願前に、特許発明である自動車番号板装着用プレートおよびその装着のためのフロントグリル製作用金型の納品依頼を疎外Dから受け、秘密維持約定を含めた金型納品契約書をDと締結した後、上記の金型で製作した試作品700個を「検収用」名目でDに提供した。Dは、市場のフィードバックを受けるためにDの職員および知人たちの車両に試作品を装着すると同時に、インターネットコミュニティの運営者Lの共同購入要請に応じてインターネットコミュニティの会員たちに販売した。Dの職員Eは試作品の動画をオンライン動画共有サイトに掲示し(先行発明1)、Lは試作品を会員たちに販売しインターネットブログに試作品の装着の様子を掲示した(先行発明2)

その後、原告は新規性喪失の例外の主張をせずに特許出願を行い特許を取得した。被告(無効審判請求人)は、先行発明1,2等によって特許発明がその出願前に公知となり新規性が否定されるという理由で無効審判を請求した。原告は、上記の公知が「権利者の意思に反した公知」であることから新規性喪失の例外規定に基づいて特許発明の新規性が否定されない旨を主張したが、特許審判院は上記の公知が新規性喪失の例外に該当しないという理由により特許が無効という審決を下した。原告は上記の無効審決が新規性喪失の例外規定に対する法理誤解があるという理由により、特許法院に審決取消訴訟を提起した。

 

特許法院の判断

●原告の意思に反して公知となったかどうか
下記のような事情を総合してみれば、金型納品契約書に秘密維持約定が含まれていたとしても、原告としては特許発明の実施製品である試作品700個の提供当時に少なくとも試作品がDの代理店、総販売店等を通じて、市場の反応を見るために秘密維持約定の当事者であるD以外の者、すなわち職員、代理店、総販売店、自動車関連クラブに配布、装着されることを知っており、これを容認していたと認めるのが相当である。従って、試作品700個のうちの一部の先行発明の公知が原告の意思に反していたものと認めるのは難しい。また、特許発明の新規性を喪失させる「公知」は必ず有償販売によるものであることを必要としないので、仮に、原告の主張のように原告がDに700個の試作品を提供した当時、市場に「販売」しないことを要請し、その具体的な販売時期や流通経路に対して原告がDから通知されることがなかったとしても、原告が容認したことによりDが試作品を配布して公知となった以上、上記の結論に相違はない。

①金型納品契約書の秘密維持約定は、原告が「金型」を製作してDに納品することのみを目的としており、出願前、製品の販売禁止約定まで含んでいたと認めることはできず、原告は試作品700個をDに提供した当時、販売を明確に禁止する別途の約定を締結することもなかった。

②試作品は車両外部に装着するもので、その構造も比較的単調で車両に装着された外観だけでもその発明の内容を直観的に理解できるという点で、その公開により一層特別な注意と努力が必要なものと見えるにもかかわらず、原告がDに700個の試作品を納品して秘密維持のための別途の措置を取らなかった。

③原告は多くの代理店と総販売店を運営するDと既存の取引関係があって、上記の700個の試作品をDに納品し、それとともに交換装着が必要なグリルもほぼ同じ数量を供給しており、原告が提供した数量が、単純に試作品が金型で正常に製作されたか否かを確認する目的のために必要な数量をはるかに超過していた点等に照らすと、原告でも700個の試作品が単純に「金型検収用」の目的だけでなく自動車に装着されて市場の反応を見るための目的でも使われると認識したものと認められる。

④Dは、金型納品契約において納品期限の遵守を特に強調し、その後、15日間を金型検収期間として予定して、試作品を原告から受け取った後、直ちにインターネット等を通じて広報活動をして自動車コミュニティを通じた販売に入った等、本件の金型で生産する製品の発売、広報、販売を急ぎ行ったが、試作品が自動車の特定モデルに限って使われる製品であって、原告が試作品700個をDに提供する前にDと試作品納品契約まで締結した点に照らすと、原告としても本件試作品の広報や市場発売に対してDに積極的に協力する十分な動機があったものとみられる。

したがって、試作品の公知による特許発明の公知が原告の意思に反して公知となったとして新規性喪失の例外に該当するという原告の主張には理由がない。

 

コメント

日本特許法第30条の規定に類似して、韓国特許法第30条でも新規性喪失の例外を規定している。韓国特許法第30条によると、特許出願前に公知となった発明が新規性喪失の例外規定の適用を受けるためには公知となった日から12ヶ月以内に出願しなければならないとされている。さらに、上記の公知が①特許を受ける権利を有する者による公知である場合には、i)特許出願の願書で新規性の喪失の例外を主張、ii)特許出願後、一定期間内(補正期間内、または、特許決定の謄本の送達を受けた日から3ヶ月以内等)に新規性喪失例外の旨を記載した書類または証明書類の提出により補完しなければならず、②特許を受ける権利を有する者の意思に反した公知である場合には、特許出願の願書にその旨を記載する必要はなく、審査官の拒絶理由、無効審判等を通じてその発明が権利者の意思に反して公知となったことを知った後、これを証明すれば新規性喪失の例外規定が適用され得る。

本事件では、②の「権利者の意志に反する公知」が問題になった。具体的に、原告はDと締結した金型納品契約に含まれていた秘密維持約定に基づいて、Dによる試作品公知が原告の意思に反した公知だと主張して新規性喪失の例外規定の適用を受けようとした。しかし、①金型納品契約書の秘密維持約定には出願前製品の販売禁止を含まない点、②700個の試作品はその提供目的である金型検収用として見るのに必要な数量をはるかに超過していた点、③試作品と共に交換装着が必要なグリルもほぼ同じ数量供給していた点等により、原告の意思に反した公知とは認められなかった。

特許で保護を受けようとする製品(または技術)について発明をした場合、いかなる目的であろうとも、特許出願前にこれを有償または無償で第三者に提供しなければならない状況が発生する場合には、該当製品(または技術)に係る発明が権利者の意思に反して公知とならないように秘密維持約定を締結すべきである。この場合、秘密維持約定書には秘密維持の適用時期、適用対象等を多角的に含めることになろうし、実際に第三者に提供する製品の数量は提供目的の範囲内で適切な水準にとどめる必要があろう。さらに契約書の作成後に、予想し得ない状況が発生したり、または発生の恐れがあるのであれば、秘密維持約定書を追加で作成することも必要であろう。

仮に特許出願前に発明が公開される状況が発生した場合には、その後、起こり得る紛争でその発明を保護するために多くの時間と労力が費やされることになる。したがって、可能な限り発明を公開する前に出願を行うことが望ましく、出願前にやむを得ず権利者自らが公開するか、または権利者が秘密維持約定を結んだ第三者に公開することになるとしても、必要最小限の範囲内で公開し、迅速に出願を行う必要があろう。

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