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ニュースレター

韓国特許法上、無権利者による冒認特許をどのようにして取り戻すか。

2022.08.16

ヘアーカッター機械に関連する特許発明の核心的な技術思想や従来技術の問題点は、30年余りにわたって美容業に従事してきた原告が自身の経験に照らして把握することができる内容として見るのが妥当であり、原告に発明者の地位を認め、正当な権利者としての移転を原因にした特許権移転の登録手続きを履行する義務があると判断した(特許法院2022.4.21.言渡し2021ナ1329判決)。

 

事実関係

 

原告は30年余り、美容業に従事している者である。被告は自動化設備製作および設置業を営む会社で、「湾曲形状ブレード具備型ヘアカッターを利用したインナーカット方法」という発明を2019.3.14付で特許出願して第1978416号とし設定登録を受け(以下、「本件第1特許」)、また「湾曲形状ブレード具備型ヘアカッター」という発明を2019.1.16付で特許出願し第1978257号として設定登録を受けた(以下、「本件第2特許」)。

原告は、本件第1,2特許の真の発明者で、被告がこれを継承していないにもかかわらず被告は出願および登録過程で任意に被告を特許権者にしてその登録を終えたため、被告は本件第1,第2特許権に関し正当な権利者である原告に特許権移転の登録手続きを履行する義務があると主張し訴えを提起した。一審法院は原告が本件第1特許の正当な権利者である点のみを認めた。これに対し原告は、本件第2特許もまた、原告が正当な権利者であるという点を主張し、原告敗訴の部分に対して二審法院である特許法院に控訴した。    
一方、被告も、本件第1特許だけでなく、本件第2特許も真の発明者は原告ではなく被告の代表理事であるCで、被告はCから本件第1,2特許を暗黙的に継承を受けたため、本件第1,2特許権に関する正当な権利者だと主張し、被告敗訴の部分に対して特許法院に控訴した。

 

特許法院の判断

 

1.発明者に該当するのかどうかの判断法理

 

発明者に該当するというためには、単純に発明に対する基本的な課題とアイディアのみを提供したとか、研究者を一般的に管理して研究者の指示でデータの整理と実験のみを行った場合、または、資金・設備等を提供して発明の完成を後援・委託した程度にとどまらずに、発明の技術的課題を解決するための具体的な着想を新しく提示・付加・補完したり、実験等を通して新しい着想を具体化したり、発明の目的および効果を達成するための具体的な手段と方法の提供または具体的な助言・指導を通じて発明を可能にした場合等のように、技術的思想の創作行為に実質的に寄与するに至らなければならない(大法院2011.7.28.言渡し2009ダ75178判決参照)

 

2.原告が本件第1,2特許の発明者であるかの判断

 

次のような事実と事情に照らしてみれば、本件第1,2特許の発明者は原告だと見るのが妥当である。

(1) 本件第1特許

①本件第1特許(湾曲形状ブレード具備型ヘアカッターを利用したインナーカット方法)の技術思想の核心や従来技術の問題点は、長年、美容業に従事して直接経験した人だけが把握できる非常に専門的な領域に該当するが、30年余りの間、美容業に従事した原告とは違い、Cは美容業関連業務の経歴があるという点を裏付ける資料が全くない。

②Cは原告に2019.2.2頃、特許出願を代わりに調べてあげるとして、原告に技術的部分の説明を要請するテキストメッセージを送った(甲第9号証)一方、その出願後、「インナーカット(の技術)は(原告である)店長のものにしなさい」というテキストメッセージを送ったりもしていた(乙第2号証)。

③原告は、2019.1.28から2019.2.27までの間にCに本件第1特許のインナーカット方法を実施した実際の写真と関連図面を具体的な説明と共に提供し(甲第9,10,18号証)、そのうちの一部の図面が本件第1特許の明細書にそのまま開示されたりもした。

④本件第1特許の場合、原告が当初出願人に含まれており、その後優先審査を通した迅速な登録のために原告を含む3人を発明者にする一方、優先審査の対象になるベンチャー企業である被告の名義で特許出願および登録がなされたものと見られる(甲第6号証)。

 

(2) 本件第2特許

①前記(1)の①項と同一。

②開発および設計業務を担当した被告の所属職員は、「原告が本件第2特許(湾曲形状ブレード具備型ヘアカッター)の基本的なコンセプトや刃の形態、角度等に関するアイディアを提供してCに説明し、被告はこれを土台に刃製作のための数値化、図式化作業、および特許出願業務を遂行した一方、Cは3Dスケッチ業務の一部および特許登録と関連した資金執行業務を遂行した」という趣旨で証言した。 

③前記(1)の④項と同じ事実と共に、被告が原告に作成・交付した事業契約書には湾曲形状具備型ブレードヘアカッター事業に関連して発生した利益金のうち30%も原告に分配すると決めている点(甲第2号証)等に照らしてみても、原告が本件第2特許に対する単純なアイディア提供者にすぎないとは認め難い。 

④Cが本件第2特許の出願日前に被告の所属職員に送ったEメールにおいて、主にカッター刃の特定の部分のサイズや形態を一部変更することに限定されているが、このような事情だけでCが本件第2特許の技術的思想の創作行為に実質的に寄与したとは見難い。

 

3.結論

被告は、本件第1,第2特許の真の発明者である原告に、本件第1,第2特許権に関して正当な権利者への移転を原因にした特許権移転の登録手続きを履行する義務がある。   

 

コメント

 

本件は、特許を受ける権利を持たない者(いわゆる「無権利者」)の被告が冒認出願をして特許を取得した後、正当な権利者である原告が訴訟を通じて、被告から原告への特許権移転の登録手続きを履行するようにした判決である。

参考までに、韓国特許法は、無権利者が取得した冒認特許に対抗して正当な権利者を保護する2つのルートを用意している。第1のルートは、正当な権利者が特許法第133条第1項第2号に基づいて無効審判を請求する一方、特許法第35条の規定による別途の特許出願をすることである。第2のルートは、正当な権利者が特許法第99条の2第1項に基づいて法院に該当特許権の移転を請求することである。本件は第2のルートに該当する。第2のルートは2017.3.1以後に設定登録された冒認特許から適用される。日本特許法は、上記の第2のルートに相応する手続きのみが残されていると理解している。

いずれのルートでも、主な争点は「正当な権利者(発明者または、その承継人)は誰か」についてである。 これを主張・立証するためには、本件のように通常の無効審判手続きよりも数多くの証拠資料を提出しなければならず、場合によっては証人尋問手続きも進める等、多くの努力を要するケースもある。  

したがって発明者は「正当な権利者(発明者または、その承継人)は誰か」という争いにおいて、自身が真の発明者であることを主張・立証することができるように発明過程を記録に残す習慣が必要である。特に本件のように発明過程で第三者との協力がある場合には、協力にいたった契機、協力の過程、第三者に提供した技術情報、第三者の役割等を記録に残しておくことが望ましい。その承継人もまた、発明者から特許を受ける権利を継承したことを立証できる証拠を残しておくことが必要といえる。

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