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ニュースレター

大法院、公知例外主張のない原出願に基づく分割出願の公知例外主張の効果を認定

2022.11.21

韓国の大法院は、原出願を出願した時点では公知例外(新規性喪失例外ともいう)主張をしておらず、分割出願をした際に公知例外主張をし原出願を取り下げた事案に対して、公知例外および分割出願の関連規定の文言と内容、各制度の趣旨等に照らして、原出願で公知例外主張をしていなくても分割出願で合法的手続きを遵守し公知例外主張をしたのであれば、原出願が自己公知日から12ヶ月以内になされた以上、公知例外の効果が認定されると認められるのが妥当であると判示した(大法院2022.8.31.言渡し2020フ11479判決)。

 

事実関係

 

(1)出願人は、原出願を公知例外主張なしに2014年12月23日付で出願し、2014年8月1日付で公知となった出願人本人の修士学位論文(先行発明3)により新規性および進歩性が否定される旨の意見提出通知を受け、これに対する補正期間内の2016年8月30日付で公知例外主張と共に分割出願(本件出願)をし、その翌日、原出願を取り下げた。これに対し、特許庁は本件出願の公知例外主張を無効処分とし、本件出願は先行発明3によって新規性と進歩性が否定される旨の意見提出通知をし、最終的に拒絶決定をした。

(2)出願人は拒絶決定を不服として不服審判請求をし、本件出願は2015年7月29日付施行改正法で新設された特許法第30条第3項(補正可能な期間等の公知例外主張および証明書類補完)が適用されるため公知例外主張が認定されるべきであると主張したが、特許審判院は、原出願で公知例外主張をしていなかったため、分割出願で公知例外主張をして原出願日を基準とした公知例外の効果は認められないという前提で原告の公知例外主張を排斥し、本件出願は先行発明3によって新規性および進歩性が否定されるという理由で拒絶決定を維持する審決をした。

(3)出願人はこれを不服として特許法院に審決取消訴訟を提起したところ、特許法院は、以下のような理由で本件出願に対する公知例外主張は認定されないとし、先行発明3によって新規性および進歩性が否定されるという趣旨により出願人の請求を棄却した。

(i)特許法第52条第2項(公知例外主張の手続条項である特許法第30条第2項を分割出願の遡及効から除外)の立法趣旨は、原出願時に公知例外主張をしなかった場合に、これを回避するための手段として分割出願を利用させるようにするものではない。

(ii)公知例外主張の手続き補完を規定する特許法第30条第3項を新設した2015年7月29日付施行改正法の施行前の判例(大法院2011. 6. 9. 言渡し2010フ2353判決等)によれば、公知例外主張の旨が特許出願書に記載されていなければ、手続きの補正によって公知例外の効果を受けることができないと解釈しているが、分割出願を通じて上記のような特許法規定を迂回することができるのであれば、特許法第30条第2項の規定が形骸化され得る。

(iii) 2015年7月29日付施行改正法は、付則により施行日以降に出願した特許出願から適用すると規定されているが、本件出願は原出願日である2014年12月23日に出願日が遡及するので改正法が適用されない。

(iv)公知例外規定は、出願人の利益のために、原則に対する例外として存在する制度であるため、法が定める要件を充足しなければならず、改正法の立法趣旨を考慮しても、施行日以後の分割出願に対して原出願で公知例外主張をしたのかどうかを問わず公知例外規定を適用することができる趣旨であるとは解釈することができない。

これに対し出願人は特許法院の判決を不服とし、大法院に上告した。

 

大法院の判断

 

大法院は、本件出願での公知例外主張は適法であるため、先行発明3は本件出願の新規性および進歩性否定の根拠にならないとし、原審判決を破棄および差戻す判決をした。特に、本事案の争点は、原出願時に公知例外主張をしていなかった場合において、分割出願時に公知例外主張をして原出願日を基準とした公知例外効果が認められるかどうかであるとし、次のような判断法理を提示した。

(i)特許法第52条第2項は、原出願で公知例外主張をせずに分割出願のみで公知例外主張をした場合に、分割出願日を基準として公知例外主張の要件充足を判断すべきであるとか、原出願での公知例外主張を、分割出願での公知例外主張を通じた原出願日を基準とした公知例外の効果認定の要件として定めたものではない。このため、法文の文言上、原出願時に公知例外主張をしなかったとしても、自己公知日から12ヶ月以内に原出願がなされて、分割出願日を基準として公知例外主張の手続き要件を充足したとすれば、分割出願が自己公知日から12ヶ月を過ぎてされていたとしても公知例外の効果が発生すると解釈するのが妥当である。

(ii)原出願時には請求範囲が自己公知となった内容と関係がなく公知例外主張をしていなかったが、分割出願時の請求範囲が自己公知となった内容に含まれている場合があり得るため、このような場合、原出願時に公知例外主張をしていなくても分割出願で公知例外主張をして出願日遡及の効力を認める実質的必要性がある。

(iii)分割出願は、補正とは別の制度で特許法第52条の要件を充足すれば許容される独立した出願であるため、出願時に抜け落ちた公知例外主張を補正の形式で補完するのは許容されないが(大法院2011. 6. 9.言渡し2010フ2353判決等参照)、この点が、原出願時に公知例外主張をしなかった場合において分割出願での公知例外主張を許容しない根拠になるとは言い難い。

(iv)改正法によって出願人の単純なミスを補完できる公知例外主張補完制度を導入しているが、こうした補正と分割出願は別の制度である点に基づき、原出願で公知例外主張をしなかった場合に分割出願での公知例外主張が認められるかの問題は、特許法第30条第3項の新設前後を問わず一貫して解釈するのが妥当である。

(v)公知例外規定は、その例外認定事由、適用対象、期間が拡大する改正を通じて出願人の発明者としての権利を実効的に保護するための制度として位置しているという点からは、分割出願における公知例外主張を通じて原出願日を基準とした公知例外の効果を認めるのを制限する合理的理由は見出しにくい。

 

コメント

 

これまでの韓国の審査実務を見ると、韓国特許審査基準において「改正法の趣旨上、原出願時に公知例外主張をしていなくとも分割出願時に公知例外主張をすることは認める」とする一方で、「改正法施行日前の2015年7月28日以前に出願された原出願を基礎とする分割出願において公知例外主張をする場合は除外する」と規定することにより、公知例外主張のない原出願に基づく分割出願の公知例外主張の認定について、改正法施行の前後で異なる解釈をしていた。

しかし今回の判決で大法院は、特許法第52条第2項の法文の文言上、原出願での公知例外主張を分割出願での公知例外主張の要件とはしていないとし、この解釈は、公知例外主張および証拠の提出を補正の形式で補完できるようにした特許法第30条第3項の新設前後において同様であるとして、分割出願での公知例外主張を認めなかった原審判決は改正法施行後だけでなく施行前の実務とも相反する旨の判断をした。

従来、特許法第30条の公知例外規定において同条第2項のように立法者が厳格な条件を設けた理由としては、公知例外の規定が出願人の利益のための例外的規定であって、出願人がこれを享受するためには法が定める厳格な要件を充足しなければならないという趣旨があったものと思われる。このため、改正前の特許法において原出願での公知例外主張を分割出願における公知例外主張の要件として設けていなかった点は立法不備に該当すると考えられる。ただし、本大法院判決を契機として法改正前の出願に対する上記のような混乱は整理されたと見ることができ、これに伴い、特許審査基準も改正されるものと予想される。また、大法院が言及しているように、公知例外規定は出願人を実効的に保護する規定であって、その規定の適用が第三者に不測の損害を与えるものではないという点で、今後も公知例外規定は出願人に有利な方向で改正されるであろうと予想される。

本件では、出願人が既存の審査実務とは真逆の立場に立って特許法の法文上の不備点につけ入り勝訴したといえるものの、一方で出願人が公知例外主張という出願時の基本的手続きを遵守できず時間および費用に莫大な損害を招いたケースとして教訓を与えている。こうした本件と全く同じ問題は法改正により今後は発生しないであろうが、出願人としては手続き遵守の重要性を今一度肝に銘じる必要があり、仮に問題が発生した場合においては既存の実務とは異なった観点から法文の解釈が可能なのか検討することも必要である。さらに、本大法院判決において公知例外規定の改正の方向性に対しても判断理由とされたという点に鑑みるとき、主張したい内容に係る法文の解釈の場面において、当該法文が改正されてきた動向を把握した上で有利な主張ポイントを導き出す戦略として参考になる。

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