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対象患者群および用量・用法を特徴とする出願発明の進歩性が認められるという特許法院判決

2022.11.21

        韓国では、2015年の大法院全員合議体判決により投与用法と投与用量が医薬用途発明の特許性判断の構成要素になり得ると判示され、その後の判決において、対象患者群を特定することも医薬用途発明の構成要素として認められたことがある(大法院2015.5.21.言渡2014フ768全員合議体判決;特許法院2017.2.17.言渡2016ホ5026判決)。これに関連して韓国特許庁も2019年に審査基準を改正して、同一成分を持つ同一疾患の治療剤でも特定患者群にのみ顕著な効果が現れることを確認できる場合には特許が可能なものとしており、現在の特許庁の審査基準には、医薬用途発明で投与用法・用量、対象患者群を限定した構成により通常の技術者が予測できない顕著な効果が現れ、特許で保護する価値があると認定される場合には、進歩性があるものと判断すると規定している。  

本判決の事例で出願発明は「B:T細胞比」が特定数値以下である高危険対象患者群に特定段階的投与用法・用量を提供することを特徴とする対象患者群とその用法・用量に特徴がある医薬用途発明であった。特許法院は上記の「B:T細胞比」を基準とした対象患者群の構成は出願発明の優先権主張日当時の技術水準や公知技術などに照らして通常の技術者が予測できない異質な効果を現わすもので、したがって上記の対象患者群に対する特定投与用法・用量の構成も先行発明から容易に導き出されると見ることができないという理由で出願発明の進歩性が先行発明から否定されないと判断した(特許法院2022.2.16.言渡し2020ホ6187(確定))。

 

事実関係

 

原告は、発明の名称を「CD19xCD3二重特異的抗体を投与する投薬用法」とする発明を出願したが、特許審判院から出願発明が先行発明1、2の組合せにより進歩性が否定されるとの拒絶決定不服棄却審決を受け、特許法院に審決取消訴訟を提起した。

 

進歩性が否定された出願発明の請求項2は、次のとおり。

[請求項2]
(a)第1用量のCD19xCD3二重特異的抗体を第1期間の間投与する段階として、上記第1用量は5~15㎍/m2/dであり、上記第1期間は7日である段階、および、続いて、
(b)第2用量の上記抗体を第2期間の間投与する段階として、上記第2用量は15~60㎍/m2/dである段階を含み、
ここで上記第2用量は上記第1用量を超え、第2期間は第1期間を超える(以下「投与用法・用量」の構成)、
CD19xCD3二重特異的抗体を、悪性CD19-陽性リンパ球を治療するためにB:T細胞比が1:5またはそれ以下であるヒトの患者に投与することによって (以下「対象患者群」の構成)、
媒介された逆効果を緩和または予防する方法に使用するための、CD19xCD3二重特異的抗体を含む薬剤学的組成物であって、
上記逆効果は、精神錯乱、運動失調、方向感覚喪失、不全失語症、失語症、言語障害、小脳症候群、振戦、運動不能、発作、大発作けいれん、麻痺および均衡障害からなる群から選択される1つ以上であることを特徴とし(以下「医薬用途」の構成)、
上記CD19xCD3二重特異的抗体はMT103である、薬剤学的組成物。

 

審決および審決取消訴訟において進歩性否定の根拠となった先行発明1は「腫瘍性疾患の治療のための手段および方法」に関する特許文献であり、先行発明2は題名を「T細胞関与抗体(T cell-engaging antibody)の微量投与による癌患者における腫瘍緩和(regression)」とする学術論文であった。

 

特許法院の判断

 

特許法院は、まず関連法理として次のように提示した。
「医薬開発過程においては、薬効増大および効率的な投与方法等の技術的課題を解決するために適切な投与用法と投与用量を見出そうとする努力が通常的に行われているため、特定の投与用法と投与用量に関する用途発明の進歩性が否定されないためには、出願当時の技術水準や公知技術等に鑑みて通常の技術者が予測できない顕著なものであるか、または異質的な効果が認められなければならない(大法院2017年8月29日言渡2014フ2702判決参照)。ここで投与周期等を含んだ投与用法および投与用量と同様に、対象患者群の特定も対象疾病の治療と共に医薬がその効能を完全に示すようにする要素として意義を有していると言える。なぜならば、医薬が有する未知の属性の発見に基づいて、既存の治療剤により治療が難しかったかまたは治療を企図しなかった患者に治療効果を奏する新たな用途を提供することに該当し得るためである。したがって、医薬という物の発明において対象疾病または薬効と共に対象患者群を付加する場合、このような対象患者群は医薬という物に新たな意味を付与する構成要素になり得、対象患者群を特定する発明は対象疾病または薬効に関する医薬用途発明と本質が異ならない(特許法院2017年2月17日言渡2016ホ5026判決参照)」

続いて、特許法院は下記の点を挙げ、医薬用途に関する構成は先行発明1、2から容易に導き出されるものの、対象患者群および投与用法・用量に関する構成が先行発明1、2から容易に発明できないため、進歩性が否定されないと判断した。

 

(1)医薬用途の構成は先行発明1および2から容易に導き出される。
先行発明1においてCD19xCD3二重特異的抗体の投与によるサイトカイン放出症候群(CRS)等の副作用を軽減させるための投与方法が提案されていることを把握した状況において、先行発明2のMT103の投与量増加による副作用として方向感覚喪失等の中枢神経系の症状が観察されたとの内容に追加で接した通常の技術者であれば、CD19xCD3二重特異的抗体を一定用量以上投与するならば、CRSと併せて方向感覚喪失、精神錯乱等のCNSの症状が副作用として現れる問題があることを直ちに認識できる。

したがって、通常の技術者であれば、CD19xCD3二重特異的抗体の副作用を減らす投与方法として先行発明1に提示されている投与方法を適用して、副作用であるCRSと神経反応を軽減させようとする技術的動機が十分あるため、医薬用途の構成は先行発明から容易に導き出される。

 

(2)「B:T細胞比」を基準とした対象患者群の構成は予測できない異質的な効果が現れる。
①出願明細書によると、悪性CD19-陽性リンパ球患者をCD19xCD3二重特異的抗体により治療するために多様な臨床試験が進められ、それから得た資料の統計的分析を通じて、患者の末梢血において測定された「B:T細胞比」が、CD19xCD3二重特異的抗体による治療時に現れる種々の副作用の中で、神経反応等の特定の副作用の後続発生に相互関連性がある唯一の予想因子であることを初めて発見、確認したことが把握できる。

②出願発明の1:5以下というB:T細胞比は、悪性CD19-陽性リンパ球患者において30%程度を占める相対的に低い数字ではあるものの、神経反応の副作用発生の危険が高く、治療過程において選択的かつ集中的な管理が必要な特定患者群を、そうでない患者群と対比して安全に合理的に区分した技術的意味もあると把握される。出願発明の対象疾患の特性上、至急な治療を要するのが一般的であることを考慮すると、低危険患者群にあえて時間と費用を投じて出願発明のような段階的投与用法を使用する必要はなく、したがって、高危険患者群にのみ安全に投与できる投与用法を提供する点において、高危険患者群と低危険患者群とを区分することは意味がある。

③先行発明1および2には、患者を治療するとき、対象患者に抗体を投与した後に患者のB細胞数とT細胞数がそれぞれ変わる様相を観察した内容程度の記載がされているのみで、治療する前に対象患者の「B:T細胞比」を考慮すること、さらに「B:T細胞比」を副作用発生の危険に関連して考慮することについてはいかなる記載も暗示も見出せない。

④出願発明の優先権主張日当時を基準とするとき、二重抗体医薬品分野はその技術発展の初期段階にあったと言えるのみであって、「B:T細胞比」が抗体治療分野全般において、ある副作用の逆効果発生の危険を予想できる因子である点が知られていたと言うに値する事情も見出せない。

⑤二重抗体医薬品分野の上記のような事情と技術水準とを総合的に考慮してみると、通常の技術者が出願発明の薬剤学的組成物の適切な投与用法と投与用量を見出そうとする通常の努力の過程において、治療対象として「B:T細胞比」を考慮することは容易ではないと言え、さらにその細胞比が1:5以下である患者を容易に探し出すことができるとも言えない。すなわち、出願発明の「B:T細胞比」を基準とした対象患者群は、出願発明の優先権主張日当時の技術水準や公知技術等に鑑みて通常の技術者が予測できない異質的な効果を奏すると言うべきである。

⑥正常人のB:T細胞比が1:3~1:7程度である点から対象患者群の構成が類推されるとの被告の主張は、出願発明が正常人を対象とするものでなく、悪性CD19-陽性リンパ球患者を治療対象としていることに鑑みるとき、正常人と出願発明の患者のB:T細胞比は技術的に関連がないため、受け入れられない。

 

(3)投与用法・用量の構成は先行発明1、2から容易に導き出されない。
投与用法・用量の構成は、B:T細胞比が1:5以下である患者、すなわちCD19xCD3二重特異的抗体の投与時に神経反応の副作用が発生する危険が高い高危険患者群を選択的対象とする投与用法・用量である。投与用法・用量の構成を適用する前提となる対象患者群自体が先行発明1、2から容易に導き出されない以上、投与用法・用量の構成も先行発明1、2から容易に導き出されると言うことはできない。

 

コメント

 

本判決は、特定抗体での治療時に神経系の副作用の発生が患者の「B:T細胞比」に関連することを発見し、「B:T細胞比」が特定数値以下である高危険対象患者群に特定の段階的投与用法・用量を提供することを特徴とするという、主として対象患者群に特徴がある医薬用途発明に関するものであった。 

対象患者群に特徴がある医薬用途発明については、特許審判院において、特定遺伝型を持つ患者群に優秀な認知機能改善効果を発揮するという事実を具体的に確認した発明に対して進歩性を認めたことがある(2018ウォン420審決)。また、特許法院では、PTH(Parathyroid Hormone;副甲状腺ホルモン)含有骨粗しょう症治療/予防剤の対象患者を年齢、骨折歴の有無、骨密度または骨萎縮度数値で限定した発明に対して、i)  対象患者群の構成が先行発明と重複するか、または当該技術分野の周知事実から容易に導き出すことができ、ii)  出願発明と先行発明は全ての骨粗しょう症治療をその効果とするため、先行発明からの異質な効果は認定されず、iii)  明細書の実施例には請求項の投与用量と異なる用量で投与された実験結果が開示されたり高危険患者のみを相手に実施した実験結果のみが記載されたりしており、量的に顕著な差があることを認定する資料もない点を挙げて、進歩性が否定されると判断したことがある(特許法院2019.8.22.言渡し2018ホ7057判決)。

これに対し本判決では、特許法院は対象患者群の構成で進歩性を認定したところ、その根拠は「B:T細胞比」を基準とした対象患者群は副作用発生の危険が高く、選択的且つ集中的な管理治療が必要だという技術的意味があるという点と、該当技術分野の技術発展が初期段階であるため、「B:T細胞比」が副作用発生の危険に関連して考慮されにくく、予測できない異質な効果があるという点であった。すなわち、本判決の内容によれば、対象患者群の構成に基づいた医薬用途発明において当該患者群の分類が先行発明と差別化されるための構成としてその技術的意味があるという点、および、当該技術分野の技術水準に照らして患者群の構成により異質もしくは顕著な効果が発現するという点が認められることが、その進歩性を認定するのに有効であるといえよう。  

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