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特許取消申請制度の運用および実務の変化にどのように対応すべきか?

2022.11.21

韓国で2017年3月に導入された特許取消申請制度が、施行後6年目を迎えている。
この特許取消申請制度は、誰でも申請が可能な公衆審査を通じて不良特許を解消するとともに、簡易かつ迅速な手続きによって早期に不良特許を整理することを目標として施行されたものである。これまでの申請件数は年平均約150件余りであり、これは無効審判請求件数の1/3程度で活用度はやや高くなっている。一方、取消率は約29%で無効審判の無効率約47%に比べると低い水準であるが、取消申請がされた特許のうち1/3近くは取消しとなっていて、これにより不良特許の「解消」という制度の目的を達成してきたといえる。

このような特許権の早期安定化のための特許取消申請制度は、当事者間の紛争解決を目的とする無効審判制度に比べて導入趣旨から制度設計までの点で多くの違いがあるが、どちらも全ての特許権を遡及して消滅させる制度であるという共通点のためか、両制度の案件を同じように処理した結果と、特許取消申請の処理期間の長期化や、制度趣旨にそぐわない不十分な特許取消申請が誘発されるなどの問題点も現れることになった。

このため特許審判院は、特許取消申請制度の導入趣旨を活かして目的に沿って運用されるよう、最近、特許取消申請処理ガイドラインを設けたと伝えられている。
これにより特許取消申請制度それ自体の変更はないものの、今後の運用や実務的な側面での変化が予想されるため、本制度を活用する取消申請人や特許権者は変更事項を熟知して戦略的に対応する必要があるものと考えられる。主な事項は次の通りである。

 

1.    取消申請期間の経過後、要旨の変更がなされた取消理由の却下

  • 従来、申請期間が経過した後に、申請人が制限なく新しい主張や証拠を追加で提出した場合であっても、審判官は無効審判手続きと混同して要旨の変更を判断しないため、要旨の変更を理由に却下した事例はほとんどなかった。これと関連する法規定についても実際の運営との間の不一致が生じ、簡単かつ迅速な処理が阻害されるという問題点が発生していた。
  • これに対し、特許審判院は、原則的に申請期限内に提出された取消理由のみを判断することとし、申請期間の経過後に追加提出された取消理由(主張、証拠)に対しては「要旨を変更したか否かを判断」することとした。要旨の変更でない場合は、既に提出された取消理由を基準として取消可否を判断し、追加提出された取消理由については特許権者に提供しないようにした。一方、要旨を変更した場合には、原則的に追加提出された取消理由を反映させずに、既に提出された取消理由のみで取消可否を判断するようにし、例外的に、追加提出された取消理由を反映させて取消可否を判断することもできるものの、この場合は特許権者に必ず意見提出通知をし、答弁書提出や訂正請求の機会を付与するようにした。
 

(申請人および特許権者の対応)申請人は、全ての主張および理由を申請期限内に提出するとともに、申請期限を過ぎた後に追加で提出する場合には、要旨の変更ではない旨を説明する必要がある。一方、特許権者は、申請人から新しい主張および証拠が提出されるかを持続的にモニタリングし、取消しとならないよう審判部に意見を提出することが重要である。

 

2. 特許権者の提出書類の申請人への非送達

  • 申請人は当事者ではないため、特許権者が提出した答弁書や訂正請求書などの書類を申請人に送達する必要はないが、ミスなどによりこのような場合が発生すると、申請人が追加の主張や理由を提出して申請人と特許権者の間の攻防が続き、審理が遅れるという問題があった。
  • これに対し、特許審判院は、原則的に特許権者が提出した中間書類の副本を申請人に送達せず、かつ申請人が申請期間の経過後に追加提出した意見書も特許権者に送達しないようにした。
 

(申請人および特許権者の対応)申請人は、特許権者が提出した書類(訂正請求書、答弁書など)に対して、特許審判院に閲覧・複写の申請をすれば見ることができ、情報提供の形態で意見を陳述することもできる。一方、特許権者もまた、申請を通じて書類を入手できるが、情報提供などによる申請人の主張に対応するためには持続的なモニタリングが必要となる。

 

3. 取消申請人が提出した取消理由に基づいて判断

  • 申請人が申請理由や証拠を提出しない、または著しく不十分だった場合でも、審判部は職権審理をし、特許取消申請制度の趣旨に合致しない事案が発生していた。
  • 特許審判院は、原則的に「申請人が提出した主張の証拠に基づいて判断」するとともに、申請期間内に取消理由が提出されなかった一部の請求項に対しては特許取消可否を判断せず、例外的に追加の証拠調査や検討が必要でない時には職権審理ができる、という基準を設けた。

 

4.    合理的な疑いなしに「明白に証明」された場合にのみ特許取消

  • 特許取消申請は、特許庁が許可した特許を、登録直後に特許庁が取り消すことができるよう設計されているため、行政庁の処分に対する国民の信頼保護の側面から特許取消決定は慎重でなければならないとされている。
  • 特許審判院は、先出願、新規性および進歩性を否定することができる有力な証拠提供などの取消理由が存在する点が「合理的な疑いなしに明白に立証されたとき」にのみ特許を取り消すことができるように証明の程度を強化し、次のような例を提示した。
 

(1)    合理的な疑いなしに明白である場合の例

1.特許発明と実質的に同じ先行技術が提出された場合
2.特許発明の主要な技術特徴を全て含む先行技術1に、先行技術2の付随的事項を付加することが通常の技術者にとって「非常に容易な場合」など

 

(2) 明白に立証されない場合の例

1.特許発明が先行技術と差があり、その差を導き出すことが通常の技術者に容易だという点が周知慣用技術の提出などで明白に立証されない場合
2.一つの特許発明の進歩性を否定するために、先行技術の多数を組み合わせなければならない場合:先行技術間の結合容易性が争点となる可能性が高くなる
 3.先行技術を組み合わせる場合の数が多数である場合:進歩性を否定する有力な先行技術が存在しないという合理的疑いが生じる可能性が高まる

 

(申請人および特許権者の対応)申請人の立証責任および取消理由に対する証明の程度が強化されることにより、特許取消率はさらに低くなると予想される。申請人は多数の先行文献と取消理由を単純羅列した従来の実務態様から脱却し、主先行文献と副先行文献を明確に特定した上で、これらの組合せが非常に容易である点を明らかにする必要がある。一方、特許権者は<明白に立証されない場合の例>を参考にして、申請人の取消理由に対して意見を提出するなど、積極的な対応が大切である。

 

5. 取消意見提出通知書および棄却決定文の簡素化

  • (取消意見提出通知書)取消意見提出通知書は、審査段階における審査官の意見提出通知書の程度で最大限簡略に作成できるものとし、取消申請人が提出した取消申請書の取消理由に替わる通知書を発送することができるようにした(すなわち「取消申請書の取消理由と同様」と記載)。
  • (決定文)特許取消申請を認容(特許取消)する場合は特許権者が不服可否を判断する資料になるので審決文に準じてその理由を決定文に詳しく記載するようにし、反対に棄却(特許維持)する場合は先行発明との差異点を中心に記載するなど、決定文の作成を簡素化することができるようにした。

 

6.    特許権者に実質的意見提出機会を付与

  • 特許取消申請は決定系(査定系の意)事件で、特許法院の段階での新しい主張や証拠の提出が不可能なため、取消意見提出通知書を通じて実質的な意見提出機会を付与しなければならない。
  • 特許審判院が①取消申請書の取消理由が不十分であるにもかかわらず、取消申請書の取消理由に替える旨の取消意見提出通知書を発行する場合や、②取消意見提出通知書の取消理由が「多数の先行技術の様々な組み合わせによって進歩性なし」であって、その先行技術の組合せの場合の数が数十種類に上る可能性がある場合、③取消意見提出通知書と取消決定書での先行技術の組合せが異なった場合などは、実質的に意見提出機会が付与されなかったと認める可能性があると提示した。
 

(特許権者の対応)特許権者は、発行された取消意見提出通知書の取消理由が上記の例示に該当しないのかを検討した上で、意見書を通じて対応する必要がある。

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