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[大法院判決] 標準必須特許権者の制限的ライセンス付与またはライセンス拒絶行為が市場支配的地位濫用行為に該当すると判示

2023.08.25

標準必須特許の保有者であると同時にこれらの特許を使用したモデムチップセットを製造・販売する事業者である原告が、競争モデムチップセットメーカーには制限的ライセンスのみ付与し、またはライセンス契約の締結を拒絶し、完成品製造者である携帯電話メーカーにはチップセットの供給とライセンス契約の締結とを連係させて不利益を強制した行為に対して市場支配的地位濫用行為に該当すると判示した(大法院2023.4.13.言渡し2020ドゥ31897判決)。

 

事実関係

 

原告は、移動通信標準技術に関する標準必須特許(SEP:Standard Essential Patents)の保有者であると同時にこれら特許を使用したモデムチップセットを製造・販売する事業者である。
原告は、2008年以前は、競争モデムチップセットメーカーとの間で本件標準必須特許に関してライセンスの範囲を制限したライセンス契約を締結し、以下に示す販売先制限条件、営業情報報告条件、クロスグラント条件を含めていた。

・競争モデムチップセットメーカーのモデムチップセット販売先を、原告らとライセンス契約を締結した携帯電話メーカーに限定する(販売先制限条件)
・競争モデムチップセットメーカーの販売量・価格など営業情報の報告を求める(営業情報報告条件)
・競争モデムチップセットメーカーが保有する特許に関して、原告がモデムチップセットを供給する顧客に無償でライセンスを提供させる(クロスグラント条件)

 

原告は、2008年以降は、競争モデムチップセットメーカーに対してライセンス契約の締結を拒絶して不提訴約定、補充的権利行使約定、時限的提訴留保約定などのみ提案し(以下、「制限的約定」という)、その契約条件として従来と同じように販売先制限条件、営業情報報告条件、クロスグラント条件を含めた(以下、2008年以前と以後をあわせて「行為1」とする)。

 

一方で、原告は原告のモデムチップセットを購入する携帯電話メーカーに対して、モデムチップセットの供給を受ける条件としてライセンス契約締結1を要求し、そのモデムチップセット供給契約において次の3つのの事項を明示することにより原告のモデムチップセット供給とライセンス契約とを連係させた(以下「行為2」とする)。

・モデムチップセットの販売は特許権を含まないこと
・購入したモデムチップセットは携帯電話の開発・製造のためにのみ使用でき、携帯電話を販売して使用する場合はライセンス契約条件に従わなければならないこと
・購買者(携帯電話メーカー)がモデムチップセット供給契約に違反するか、またはライセンス契約に違反して一定期間内にこれを治癒しない場合、原告はモデムチップセット供給契約を破棄するか、またはモデムチップセット供給を中断もしくは保留できること

 

公正取引委員会は、原告の上記行為1、行為2が自身の市場支配的地位を濫用して競争モデムチップセットメーカー、携帯電話メーカーの事業活動を妨害する行為だと判断し、2017月1月20日に是正命令と課徴金約1兆311億ウォンを課する処分を下した。これに対して原告はソウル高等法院に上記処分に対する取消訴訟を提起したが、ソウル高等法院はこれを大部分棄却し、原告はこれを不服として上告を提起した。

 

関連規定および法理

 

1) 旧「独占規制および公正取引に関する法律」(以下「公正取引法」)第3条の2第1項は市場支配的事業者の地位濫用行為を禁止する規定で、同項第3号に、その地位濫用行為の一つとして他の事業者の事業活動を不当に妨害する行為(以下「事業活動妨害行為」)を規定する。旧「独占規制および公正取引に関する法律施行令」(以下、「施行令」)第5条第3項第4号は事業活動妨害行為の一つとして、「第1号~第3号以外の不当な方法で他の事業者の事業活動を難しくする行為であって公正取引委員会が告示する行為」を規定しており、これに基づき公正取引委員会が告示した「市場支配的地位の濫用行為の審査基準」(以下「本件告示」)には、施行令第5条第3項第4号の1つの場合として「取引相手に正常な取引慣行に照らして妥当性がない条件を提示する行為」(以下「妥当性のない条件提示行為」)、「不当に取引相手に不利益となる取引または行為を強制する行為」(以下「不利益強制行為」)を各々規定している。

 

2) 市場支配的地位の濫用行為としての上記の妥当性のない条件提示行為は、「市場支配的事業者が取引相手に正常な取引慣行に照らして妥当性がない条件を提示することによってその事業者の事業活動を不当に難しくする行為」をいう。ここでの「正常な取引慣行」とは、原則的に該当業界の通常の取引慣行を基準として判断するものであるが、具体的事案によって望ましい競争秩序に符合する慣行を意味し、現実の取引慣行と常に一致するものではない。これに該当するかは、市場支配的地位の濫用を防止し、公正且つ自由な競争を促進することにより創意的な企業活動を行い、究極的には国民経済のバランスが取れている発展を図ろうとする公正取引法の立法趣旨を考慮して規範的に判断されなければならない。一方、市場支配的地位濫用行為としての不利益強制行為は、「市場支配的事業者が不当に取引相手に不利益になる取引または行為を強制することによってその事業者の事業活動を難しくする行為」をいう。

 

3)妥当性のない条件提示行為、不利益強制行為のような事業活動妨害行為が市場支配的地位の濫用行為に該当するためには、その行為が異なる事業者の事業活動を不当に難しくする行為と評価されなければならない。ここで言う不当性は、「寡占的市場での競争促進」という立法目的に合わせて解釈すべきものであるため、市場支配的事業者が個別取引の相手である特定事業者に対する不当な意図や目的を持って事業活動を妨害した全ての場合、または、その事業活動の妨害行為によって特定事業者が事業活動に困難を来すことになった、または、困難を来すおそれが発生したというように、特定事業者が不利益を被るようになったという事情だけではその不当性を認めるのに不十分であって、その中でも特に市場での寡占を維持・強化する意図や目的、すなわち市場での自由な競争を制限することによって人為的に市場秩序に影響を加えようとする意図や目的を有し、客観的にもそのような競争制限の効果が生じるようなおそれがある行為と評価され得る行為としての性質を有する事業活動の妨害行為をした時にその不当性が認められる。したがって、市場支配的事業者の事業活動の妨害行為がその地位濫用行為に該当すると主張するためには、その事業活動の妨害行為が商品の価格上昇、産出量減少、革新阻害、有力な競合事業者数の減少、多様性の減少などのような競争制限の効果が生じるおそれがある行為として、それに対する意図と目的があったという点を証明しなければならない。事業活動の妨害行為によって現実的に上記のような効果が得られることが証明された場合にはその行為をした当時に、競争制限を招くおそれがあり、かつ、それについてのる意図も目的があったことを事実上推定できる。しかし、そうではない場合には、事業活動の妨害の経緯および動機、事業活動妨害行為の態様、関連市場の特性、事業活動の妨害によってその取引相手が受けた不利益の程度、関連市場での価格および産出量の変化の有無、革新阻害および多様性減少の有無などの様々な事情を総合的に考慮して、事業活動の妨害行為が上記したような競争制限の効果が生じるほどのおそれがある行為としてそれについての意図と目的があったかを判断しなければならない。そしてこの時、競争制限の効果が問題になる関連市場は市場支配的事業者または競争事業者が属する市場だけではなく、その市場の商品生産のために必要な原材料や部品および半製品などを供給する市場、または、その市場で生産された商品の供給を受けて、新しい商品を生産する市場も含まれ得る(大法院2007.11.22.言渡し2002ドゥ8626全員合議体判決、大法院2008.12.11.言渡し2007ドゥ25183判決、大法院2010.3.25.言渡し2008ドゥ7465判決など参照)。

 

法院の判断 

 

原告の行為1は妥当性のない条件提示の行為として、原告の行為2は不利益強制行為として、各々公正取引法第3条の2第1項第3号の市場支配的地位の濫用行為に該当する。

 

1)原告は、本件標準必須特許関連技術が標準技術として選ばれた当時、標準化機構に、実施者に公正且つ合理的で非差別的な(FRAND: Fair, Reasonable And Non-Discriminatory)条件(以下、「FRAND条件」)で実施許諾するという自発的な確約をした。原告が標準化機構に対して行った確約の内容と経緯、標準技術選定時に上記のような確約を要請する趣旨、現実的にモデムチップセットの段階で本件標準必須特許に関するライセンスを提供することが不可能だとは言えない点などを考慮すると、原告は実施許諾を受ける意志があるモデムチップセットメーカーに対し、本件標準必須特許に関するライセンス契約においてFRAND条件で誠実に交渉する義務を負う。

 

2)それにもかかわらず、原告は本件標準必須特許ライセンス市場および本件標準別モデムチップセット市場において、市場支配的地位を有する垂直統合事業者として上記各市場での市場支配的地位を利用して行為1と行為2を相互有機的に連係させることによって「携帯電話段階ライセンス施策」、すなわち競争モデムチップセットメーカーに対して上記のようにFRAND条件による誠実な実施条件交渉手続きを経てライセンスを提供せずに、携帯電話メーカーに対しライセンス契約の締結を強制する事業モデルを具現した。

 

3)原告の行為1は「妥当性のない条件提示行為」に該当する
まず、行為1を見ると、原告は実施許諾を受ける意志がある競争モデムチップセットメーカーとFRAND条件による誠実な実施条件での交渉手続きを経ないまま制限的ライセンス契約を締結し、またはライセンス契約の締結を拒絶して制限的約定のみを締結した。これは、競争モデムチップセットメーカーに対して本件標準必須特許をFRAND条件で実施許諾したものとは認められない。さらに、制限的ライセンス契約および制限的約定に含まれていた販売先制限条件、営業情報報告条件などにより、競争モデムチップセットメーカーは、モデムチップセット販売先が原告とライセンス契約を締結した携帯電話メーカーに限定され、モデムチップセットの購買者別販売量といった機微な営業情報を競合事業者である原告に四半期ごとに報告しなければならないなど、その事業活動が難しくならざるを得なかった。したがって、このような原告の行為1は「取引相手である競争モデムチップセットメーカーに正常な取引慣行に照らして妥当性のない条件を提示した行為」に該当する。

 

4) 原告の行為2は「不利益強制行為」に該当する。
次に行為2を見ると、原告は原告のモデムチップセットを購入しようとする携帯電話メーカーに原告のモデムチップセットを供給を受ける条件としてまず原告とライセンス契約を締結することによって、原告が市場支配的地位を有する本件モデムチップセット市場の商品であるモデムチップセットの供給を手段として携帯電話メーカーがライセンス契約をFRAND条件で交渉することを難しくした。さらに、原告は携帯電話メーカーとモデムチップセット供給契約を締結して「携帯電話メーカーがライセンス契約に違反した場合、モデムチップセット供給契約を破棄する、または、モデムチップセットの供給を中断・保留することができる。」などの内容で約定することにより、モデムチップセット供給と直接関係がないライセンス契約違反のみでもモデムチップセットの供給が中断・保留され、携帯電話事業全体に危機が生じ得るようにし、携帯電話メーカーにライセンス契約の締結および維持を強制させ、このような行為2は行為1と結合して、携帯電話メーカーが原告の代わりに他のメーカーのモデムチップセットを購入して行為2を回避することを遮断した。したがって、原告の行為2は「取引相手である携帯電話メーカーに不利益になる取引または行為を強制した行為」に該当する。

 

5) 「携帯電話段階ライセンス施策」は競争制限の効果が生じるおそれがある。
上記のような行為1と行為2が相互有機的に連係して具現された「携帯電話段階ライセンス施策」は、競争モデムチップセットメーカーおよび携帯電話メーカーの事業活動を難しくすることによって本件標準別モデムチップセット市場での競争を制限する効果を発生させるおそれがある。その理由は次のとおりである。

 

①原告の携帯電話段階ライセンス施策によれば、すべての携帯電話メーカーは原告と本件標準必須特許に関するライセンス契約締結が強制され、競争モデムチップセットメーカーは携帯電話メーカーにモデムチップセットを販売する事業において上記のような携帯電話メーカーと原告間のライセンス契約関係に従属する。

すなわち、原告が競争モデムチップセットメーカーに制限的ライセンス契約のみ締結し、またはライセンス契約の締結を拒絶したまま制限的約定のみ締結することにより(行為1)、すべての携帯電話メーカーは原告の特許を侵害せず適法にモデムチップセットの供給を受けるためには、モデムチップセットを誰から供給されるのかには関係なく必ず原告とライセンス契約を締結しなければならない(これは専ら標準必須特許権者である原告とのみ締結することができる)。そのうち原告のモデムチップセットを購入しようとする携帯電話メーカーは、原告と締結するモデムチップセット供給契約の内容によって原告のモデムチップセット供給とライセンス契約とが連携されるため(行為2)、原告とのライセンス契約締結だけでなく維持も強制される。

一方、競争モデムチップセットメーカーは原告の特許を侵害せずに適法にモデムチップセットを販売するためには、原告とライセンス契約を締結した携帯電話メーカーにのみモデムチップセットを販売できるものとされ、競争モデムチップセットメーカーは購買者、購買者別販売量といった機微な営業情報を競合社である原告に報告しなければならない。もし携帯電話メーカーが原告とのライセンス契約に違反すれば、競争モデムチップセットメーカーはそれが自身と関係がない契約の違反にもかかわらず、該当携帯電話メーカーとモデムチップセットの供給取引をすることにおいて上記の契約違反による不利益を甘受しなければならない境遇に置かれる。

 

②これに加えて原告は、すべての競争モデムチップセットメーカーが原告と締結しなければならない制限的ライセンス契約、制限的約定にクロスグラント条件を含めただけでなく、全ての携帯電話メーカーが原告と締結せざるを得ないライセンス契約にもクロスグラント条件を含めることによって、競争モデムチップセットメーカーよりはるかに広範囲な特許の傘を構築した。これにより原告のモデムチップセットは、競争モデムチップセットメーカーのモデムチップセットより競争優位に置かれることになる。

 

③ このように原告の携帯電話段階ライセンス施策は、競争モデムチップセットメーカーのモデムチップセット製造・販売などの費用を上昇させ、または技術革新を阻害して、本件標準別モデムチップセット市場から競争モデムチップセットメーカーを排除する効果をもたらすおそれがあり、潜在的競争モデムチップセットメーカーの市場進入を制限してモデムチップセットの多様性を減少させるおそれもある。
原審が認めた通り、原告が携帯電話段階ライセンス施策を実施する間、多くの競争モデムチップセットメーカーが市場から退出された点などは、このような競争制限効果が発生するおそれがあることを裏付けている。

 

6) 「携帯電話段階ライセンス施策」の意図や目的は、市場支配的地位を維持・強化するためである。
さらに上述した事情に加え、標準必須特許権者の誠実な実施条件交渉手続きの履行は標準必須特許権の濫用を防止するという側面からその必要性が大きい点、および記録によると原審が認めた原告の事業モデル構築の経緯、原告の内部文書に記載された競争制限の意図などが認められる点までを考慮すると、原告が行為1と行為2を通じて携帯電話段階ライセンス施策を実現した意図や目的は、単純に最終完成品段階で部品段階の特許まで包括して実施料を算定することによって効率性を図るためのものというよりは、本件標準別モデムチップセット市場で競争モデムチップセットメーカーを排除して原告の市場支配的地位を維持・強化するためと認められる。

 

コメント

本事案で、大法院は標準必須特許の濫用を防止するという観点から標準必須特許権者のFRAND条件による誠実な実施条件交渉手続きの履行の義務について言及した。
標準必須特許は、一般特許とは異なり、特許権の濫用を防止するために、標準化の過程でFRAND宣言をすることが要求されている。標準必須特許の保有者がFRAND宣言を遵守しない場合には、標準技術が少数の事業者または特許権者単独によって専有されるものとなり、標準化手続きを毀損し技術間競争を歪曲する結果を招くことになる。2  
したがって標準必須特許は、特許法による独占排他的な権限に加えて、標準技術としての公共性を同時に有している。標準特許権の行使が公正取引法など競争法により問題になる場合は、公益性などを考慮して制限が可能である。
標準必須特許は、標準と特許という相反する性質を有するため、標準と特許制度の趣旨をいずれも活かせる方向で規制することが必要となる。標準必須特許に関連したライセンス契約や紛争などにおいて、特許権者への適切な補償と特許実施者の技術標準の利用可能性の間で均衡が図られるように、今後も一層の議論が行われるべきともの思われる。

 


1.これは「ライセンスがなければ、モデムチップセットもない」(No License, No Chips)という施策として表現されることもある。
2.FRAND宣言の意味と標準特許権者の権利行使に関する具体的な争点に対する判例が世界各国から出ており、最近ではEU委員会で関連規則を明文化するなど基準を確立する動きがある。

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