2024年1月1日から施行された改正特許法施行令では、特許出願における優先審査の対象として、「ディスプレイ技術分野」が新たに追加された一方で、「専門機関への先行技術調査を依頼した特許出願」は除外された。また、登録遅延による存続期間延長制度に関連して、その延長期間から除外される「出願人により遅れた期間」について、その対象が拡大され新たな要件が追加された。これらの改正は韓国特許出願の権利化実務に一定の影響を与えるものである。
優先審査の対象として「専門機関への先行技術調査依頼をした特許出願」を除外
特許出願に対する審査着手は審査請求順に行われることが原則である中、特定要件に該当する出願に限っては他の出願より優先して審査することができるとされ(特許法第61条)、特許法施行令には多様な優先審査の対象を規定している(特許法施行令第9条各号)。
それらのうち、これまで海外企業は1)PPHまたはPCT-PPH(韓国特許庁長が外国特許庁長との間で優先審査をすることに合意した特許出願)と、2)専門機関への先行技術調査依頼出願(優先審査の申請人が所定の専門機関に先行技術の調査を依頼し、その調査結果を特許庁長に通知するよう該当専門機関に要請した特許出願)の2種類の要件を申請事由として多く利用してきた(下表参照)。
上記の表のように、専門機関への先行技術調査依頼に基づく優先審査の申請は優先審査申請の総件数のうち約30%またはそれ以上を占めている。この申請事由については、特許庁が指定した専門機関に所定の費用を支払い先行技術調査を依頼しさえすれば、その他の特別な要件なしに優先審査が可能という点が出願人にとってのメリットとして作用していたが、今回の特許法施行令改正ではこれが優先審査の対象から除外されることとなった(特許法施行令第9条第11号が削除)。
こうした今回の改正は、専門機関への先行技術調査依頼」に基づく優先審査申請件数が大幅に増加したことで通常の審査件の処理が遅れているという点や、これにより緊急性が高い他の優先審査対象件の審査を十分迅速に行えずにいるといった点が考慮されたものと見られる。
それ以外にも、今回の改正前に特許庁は審査処理遅延の問題を解決するために内部処理指針を変更し、第三者実施や自己実施を理由とした優先審査は原則的に優先審査決定日から2ヶ月以内に審査結果を通知する一方で、PPHやPCT-PPHを理由とした優先審査は4ヶ月以内に通知し、専門機関への先行技術調査依頼による優先審査は8ヶ月以内に通知するようにするなど、優先審査対象件の申請事由に基づき審査の迅速性に差別化を設けて運営してきた。しかし今回の改正は、緊急性が低い専門機関への先行技術調査依頼については、もはや優先審査の対象からも除外することとしたものである。
今回の改正により、専門機関への先行技術調査を活用した優先審査申請は今後行うことができないため、韓国特許出願の早期権利化をする場合において留意する必要がある。
先端技術の優先審査の対象を「半導体分野」に続き「ディスプレイ分野」にも拡大
韓国特許庁は、2022年に既に施行されている半導体分野に続き、このたびディスプレイ分野でも優先審査が可能なように優先審査の対象を拡大した(特許法第61条第2号、特許法施行令第9条第1項第2号の3)。2023年11月1日から1年間、本施行令が一時的に施行され、1年後に延長について再検討する予定である。
今回拡大された優先審査の対象は「ディスプレイ素材・部品・装備、製造または設計技術と直接関連した出願」で、次のうちのいずれか一つに該当すれば申請が可能である。ただし、ディスプレイ関連技術を他の分野に応用した出願(例:ディスプレイ装置を含む車両など)は優先審査の対象に該当しない。
① ディスプレイ関連製品、装置などを国内で生産もしくは生産準備中である企業の出願
② ディスプレイ技術関連で国家研究開発事業の結果に関する出願
ディスプレイ分野の一般審査の平均処理期間は15.9ヶ月(’22年基準)であるが、1年前に施行された半導体分野の優先審査件の平均処理期間が1.9ヶ月となっている点を勘案すると、ディスプレイ分野でも1年以上審査期間が短縮されることが期待される。
以上のように、韓国特許庁は特定の先端戦略技術に対して審査能力を集中させて優先審査の支援を強化しているところ、従来の専門機関への先行技術調査依頼による優先審査ができなくなった代わりとして、半導体、ディスプレイ、2次電池、バイオなどの先端戦略技術に対しては優先審査を活用できるのか改めて検討が必要である。
登録遅延による特許権存続期間延長の対象から除外される「出願人により遅れた期間」を拡大
韓国特許法は特許出願に対し出願日から4年と出願審査請求日から3年のうちの遅い日より遅れて特許権の設定登録が成立した場合には、その遅れた期間分だけ当該特許権の存続期間を延長することができるように規定しているが(特許法第92条の2の第1項)、「出願人により遅れた期間」は当該特許権存続期間の延長期間から除外されるものとしている(特許法第92条の2の第2項)。
韓国特許法施行令は「出願人により遅れた期間」について具体的に規定しているところ(特許法施行令第7条の2の第1項)、これを改正することにより、「出願人により遅れた期間」として下記の2点の項目が追加または拡大された(2024年1月1日から施行中)。
1.特許決定謄本送達日から再審査にともなう特許可否決定日までの期間が追加
特許決定がされた後でも出願人が再審査を請求する場合において「特許決定謄本送達日から再審査による特許可否決定日までの期間」が、「出願人により遅れた期間」として新しく追加された(特許法施行令第7条の2の第1項第1号ル目)。
2.特許拒絶決定謄本送達日から審判請求日までの期間に拡大
特許拒絶決定に対して不服審判を請求する場合において「出願人の請求によって審判の請求期間が延びた分の期間」のみを「出願人により遅れた期間」として規定していたが、これを改正により「特許拒絶決定謄本送達日から審判請求日までの期間」に拡大した(特許法施行令第7条の2の第1項第1号ロ目、第1項第1号ノ目新設)。
これは2022年4月20日に施行された改正特許法を反映したものであり、改正特許法では、1)再審査請求の対象が‘「特許拒絶決定された出願」のみならず「特許決定された出願」に拡大され(特許法第67条の2第1項)、2)特許拒絶決定に対して不服審判を請求できる期間が30日から3ヶ月に延長されている。
今回の特許法施行令の改正は「出願人により遅れた期間」とされる対象が拡大されたという点で特許権者の立場では有利とは言えないものの、もともと特許権存続期間を延長する本制度は韓米FTA協定締結により導入されたもので、これに相応するアメリカの制度との公平性を考慮すると、今回の改正は合理的であると見ることもできる。