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訂正発明の請求項の解釈等により先行発明によっては進歩性が否定されないため、訂正要件を充足したと判断された事例

2024.02.08

訂正発明の請求範囲の解釈と該当技術分野の技術常識によると、訂正発明と先行発明1は保護対象、構成要素および作用効果が異なっており、訂正発明は先行発明の結合によって容易に導き出すことはできないため進歩性が否定されない。また、被告が主張する訂正不認定事由(特許法第136条第1項、第3項、第4項違反)については、訂正意見提出通知書に記載された事由(同条第5項違反)とは異なる別の新しい事由であって主な趣旨において実質的に同一であるともいえないことから、かかる意見書提出の機会を付与していない被告の主張による事由は、訂正審判請求を棄却した本件審決が正当であるとする事由とすることはできない(特許法院2023.9.14.言渡し2023ホ10750判決)。

 

事実関係

 

原告の訂正審判請求に対し、特許審判院は、「特許発明の請求項1,3ないし18(本件第1項、第3項ないし第18項訂正発明)は通常の技術者が先行発明1ないし7の結合によって容易に発明することができ、特許法第136条第5項の規定に違反する。」との理由で訂正意見提出通知をし、これに対して原告が意見書を提出した。特許審判院は「本件訂正審判請求は特許法第136条第1項、第3項および第4項で定めた訂正要件を充足するが、本件第1項、第3項ないし第18項訂正発明は通常の技術者が先行発明1ないし7の結合によって容易に発明することができ特許法第136条第5項の規定に違反する。」との理由により、審判請求を棄却する旨の審決を下した。

これを不服とした原告は審決取消訴訟を提起し、本件訂正発明は先行発明1ないし7の結合により進歩性が否定されないと主張した。これに対し、被告および被告補助参加人は、本件第1項訂正発明が先行発明1,2,3,5,6の結合によって容易に発明できることにより進歩性が否定され、また、本件第1項訂正発明の訂正事項は、請求範囲を縮小する場合、誤って記載された事項を訂正する場合、不明確な記載事項を明確にする場合(特許法第136条第1項各号)のいずれにも該当せず、特許発明の明細書または図面に記載された事項の範囲に属さず(特許法第136条第3項)、請求範囲を実質的に変更すること(特許法第136条第4項)に該当するため、特許法第136条第1項、第4項、第4項の訂正要件に違反し不適法であると主張した。

 

特許法院の判断

 

1.本件第1項訂正発明の進歩性の有無について

1) 本件第1項訂正発明の構成

 

 

2) 本件第1項訂正発明の請求範囲の解釈

前提部の「市販された携帯用表示装置」は「部品としての液晶パネルではない一般使用者が完成品として使用できる携帯用表示装置」を意味し、「曲面カバーガラス保護フィルム」は「曲面カバーガラスではない、曲面カバーガラスを保護するためのカバーガラスの保護フィルム」を意味し、構成要素2の「ガラスフィルム部材の重さによって」は「外力が付加されることを排除した状態でガラスフィルム部材の重さによって」を意味すると解することが妥当である。

 

3) 本件第1項訂正発明と先行発明1の差異点
本件第1項訂正発明と先行発明1は、粘着組成物を塗布した後、光硬化方式を使用して粘着層を形成するという一部の技術的構成において類似の側面があったとしても、以下の差異点を有している。これらに基づくと、発明の目的となる保護対象は「カバーガラス(=表示領域)」で「液晶パネル」とは異なり、使用される粘着組成物の粘度も異なって硬化後付着される構成間付着力についての作用効果も異なるだけでなく、その技術を利用する主体も「保護フィルムメーカー」で「携帯用表示装置メーカー」とは異なるため使用される産業分野が異なってその技術分野を同じにするとは認めがたい

 

差異点1(前提部):本件第1項訂正発明のガラス保護フィルムは保護対象が「携帯用表示装置の表示領域」であるのに対し、先行発明1の保護板は保護対象が「表示パネル」である点。
差異点2(構成要素1):先行発明1には曲面表示領域を保護するための曲面領域部を開示していない点であり、通常の技術者は先行発明1または先行発明1,5,6によって容易に克服することができない。
差異点3(構成要素2):先行発明1にはガラスフィルム部材に対応する保護板の重さによって樹脂組成物が広がるようにするという構成について明らかに開示していない点。
差異点4(構成要素3):粘着組成物の粘度を限定した数値範囲は、通常の技術者が先行発明1に先行発明2,3,5,6を結合しても容易に克服できない。
差異点5(構成要素4):構成要素4は付着力向上のために意図的に形成したパターンであるのに対し、先行発明1の凹凸は保護板の外周端に印刷されている黒色の印刷層などで意図していない凹凸である点であり、通常の技術者が先行発明1から容易に克服できない。

 

本件第1項訂正発明と先行発明1は、保護対象、構成要素および作用効果が異なっており、 本件第1項訂正発明は先行発明の結合によって容易に導き出すことはできないため進歩性が否定されない。

 

2. 本件第1項訂正発明は特許法第136条第1項、第3項、第4項に違反しているかどうか

本件において被告が主張する訂正不認定事由(特許法第136条第1項、第3項、第4項違反)は、訂正意見提出通知書に記載された事由(特許法第136条第5項違反)とは異なる別の新しい事由であり、主な趣旨において訂正意見提出通知書に記載された事由と実質的に同一だとも認められない。したがって、意見書提出の機会を付与したことがない被告の上記主張による事由は、訂正審判請求を棄却した本件審決が正当だという事由とすることはできないため、被告の上記主張は理由がない。

 

コメント

本件訂正発明は、一般使用者に市販された携帯用表示装置に対し、その曲面表示領域に付着するためのカバーガラス保護フィルムに関するもので、ガラスフィルム部材、粘着層を主な構成要素として含んでいる。これに関連し、表示装置の製造工程で表示パネルに保護フィルムを付着する類似の技術は従来技術として多く存在し、主引例である先行発明1もこうした技術の一つであった。

本事案の訂正審判では先行発明1に他の先行発明を結合して本件訂正発明の進歩性を否定したところ、特許法院は、本件訂正発明の請求範囲について改めて解釈をした上で、進歩性を認定した。

具体的には、本件訂正発明の発明の目的になる保護対象は表示装置のカバーガラスであって、先行発明の液晶パネルとは異なると判断された。また、本件訂正発明の技術を使用する主体は保護フィルムメーカーであって先行発明1の表示装置メーカーとは異なっており、これにより両発明の技術分野も異なると判断されている。さらには、本件訂正発明の構成も、粘着組成物の粘度や付着方式(保護板の重さによって)において先行発明と異なっていたところ、こうした本件訂正発明の保護フィルムの付着方式は、先行発明の付着方式から容易に適用できないと判断し、本件訂正発明の進歩性を認めたといえる。

進歩性を争う事案では、両発明の単純な構成比較にとどまることなく、本事案のように請求の範囲の解釈が重要になる場合がある。本事案で特許法院は、請求の範囲および明細書の記載に基づき発明の保護対象を明確に特定し、また、先行発明と類似の技術分野であるとしてもその技術を使用する主体(例えば、メーカー)や各分野で要求される作用効果の違い等を綿密に検討して、実際に両発明の違いがあるのかを判断している。こうした点に基づき、発明の技術が先行発明の技術分野に容易に適用可能な技術であるのか、その適用において阻害要因が存在したり相当な設計変更などが要求されたりするのかなどを検討することは、実務上重要であると言える。

さらに本事案で被告は、意見提出通知書に記載されなかった事由を訂正不認定事由として新たに主張したが、これは認められなかった。したがって審決取消訴訟において新たな主張をする場合には、その主張が意見提出の機会を付与しなかった事由に該当するのかどうかについて、まず検討する必要があると思われる。 

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