Skip Navigation
Menu
ニュースレター

選択発明において先行発明に対する構成の困難性が認められず、異質的又は量的に顕著な効果が認められないとして進歩性が否定された事例

2024.08.05

本件特許発明は、有機電界発光素子(OLED)等に使用される電子素子用材料に関する化合物を請求の範囲とする。先行発明1、2に対しては置換基の置換位置の選択によって一部の化合物に含まれ得る関係にあったところ、置換基を他の置換位置に置換させることに対する否定的な教示がなく、本件特許発明における寿命及び外部量子効率の効果が先行発明と比べて異質的又は量的に顕著であると断定することが困難であることから、進歩性が否定されると判示した(大法院2024. 5. 30.言渡し2021フ10022判決)。

 

事実関係

 

原告は、本件特許発明が先行発明1又は2により進歩性が否定されるとする特許審判院の特許取消決定に対して、その特許取消決定の取消しを特許法院に請求して、本件特許発明は先行発明1又は2の選択発明に該当せず一般の法理を基準として進歩性を判断するべきであり、また、本件特許発明が選択発明であるとしてもOLEDの寿命や効率等を向上させる効果を有することから先行発明1又は2に比べて効果の異質性又は顕著性が認められるため進歩性が否定されるとはいえず、本件特許発明が選択発明だとしてもその進歩性の判断において構成の困難性も考慮すべきであるところ、本件請求項1の発明は先行発明1又は2に対して構成の困難性が認められるので先行発明1又は2により進歩性が否定されるとはいえないと主張した。

これに対し、原審(特許法院)では、本件特許発明は先行発明1、2に対して置換基の置換位置が異なるだけで化合物の構造は同じであり、また、先行発明1、2には置換基をほかの置換位置に置換させることについての否定的な教示がなく、本件特許発明における寿命及び外部量子効率の効果が先行発明と比べて異質的であるとか量的に顕著であるとは断定し難いため、本件特許発明の進歩性は否定されると判示した。

 

大法院の判断

 

1.選択発明の進歩性判断の法理

 

先行発明において特許発明の上位概念が公知となっている場合であっても、構成の困難性が認められれば特許発明の進歩性は否定されない。先行発明の化学式とその置換基の範囲内に理論上含まれるだけで先行発明に具体的に開示されていない化合物を請求の範囲とする特許発明の場合にも、進歩性の判断のために構成の困難性を判断すべきである。

また、特許発明の進歩性を判断する際にはその発明が有する特有の効果も考慮すべきである。先行発明に理論的に含まれる数多くの化合物のうち、特定の化合物を選択する動機や暗示等が先行発明に開示されていない場合であっても、それが何の技術的な意義もない任意の選択にすぎない場合には、そのような選択に困難があったとは認められないところ、特許発明の効果は、選択の動機がなく構成が困難な場合であるのか、それとも任意の選択にすぎなかった場合であるのかを区別することができる重要な表示になり得るためである。また、化学、医薬等の技術分野に属する発明は構成のみによる効果の予測は容易ではないので、先行発明から特許発明の構成要素が容易に導き出されるかを判断する時に発明の効果を酌量する必要があり、発明の効果が先行発明に比べて顕著であれば、構成の困難性を推論する有力な資料になるといえる

 

2.本件特許発明の進歩性の判断

 

本件特許発明は有機電界発光素子(OLED)等に使用される電子素子用材料に関する発明で、本件特許発明の請求範囲(2019年6月28日に訂正請求されたもの)における請求項1(以下「本件訂正発明」とする)は、 化学式(Ⅰ-1)ないし(Ⅰ-8)から選択されることを特徴とする化合物である。本件訂正発明については、その構成要素のうち一部が請求項に選択的に記載されていて、その選択的構成要素のうちいずれかを選択して先行発明と比較した結果、進歩性が否定されれば、当該請求項全部の進歩性が否定される。 

 

先行発明1又は2は、いずれも有機電界発光素子に関する化合物発明であって、置換基等の発明の構成要素の一部が選択的に記載されているところ、その置換基と置換位置等の選択に応じて、理論上、先行発明1又は2の化合物に本件訂正発明の一部の化合物が含まれ得る。

 

本件訂正発明の化学式(Ⅰ-1)ないし(Ⅰ-8)の化合物は、フェナントレンの1番及び/又は4番の位置のみジアリールアミノ基やジアリールアミノ基に連結される連結基が置換されるものとして限定されているが、先行発明1にはそのような限定はない。また、本件訂正発明の化学式(Ⅰ-4)及び(Ⅰ-5)の化合物は、フェナントレンの1番又は4番の位置においてジアリルアミノ基に連結される連結基が置換されるものとして限定されているが、先行発明2ではジアリルアミノ基に連結される連結基がフェナントレンの何番の位置で置換されるのか特定されていない。ところで先行発明1は、望ましい連結基としてフェナントレン基を記載する一方、上記連結基がフェナントレンに置換される位置として1番、4番の位置を含めて列挙している。先行発明1又は2においてジアリルアミノ基がフェナントレンに置換され得る位置は5ヶ所であり、そのうちフェナントレンの1番又は4番の位置においてジアリルアミノ基を置換することに対する否定的な教示や示唆はない。先行発明1に具体的に開示された化合物H11、H24は本件訂正発明の化学式(Ⅰ-1)、(Ⅰ-2)と、先行発明2に具体的に開示された化合物(25)、(28)、(29)等は本件訂正発明の化学式(Ⅰ-4)、(Ⅰ-5)と、それぞれフェナントレン置換位置が異なるだけで同じ構造である。

 

本件訂正発明の化合物が持つ寿命及び外部量子効率についての効果は、先行発明の1又は2と質的に異なる効果とは認められない。一方、本件特許発明の明細書に記載された実施例、及び原告が追加で提出した比較実験資料は、特定の一部置換基又は置換位置に関する実験結果であり、その記載内容だけでは化学式(Ⅰ-1)ないし(Ⅰ-8)から選択されることを特徴とする本件訂正発明の化合物全てが先行発明1又は2に比べて寿命や外部量子効率において量的に顕著な効果を有すると断定することは難しい。

 

3.結論 

 

上記のような事情により、本件訂正発明は先行発明1又は2と比較して構成が困難であるとか顕著な効果があると認めることができないため、通常の技術者が先行発明1又は2によって容易に発明することができ、進歩性は否定される。原審が同じ趣旨で本件訂正発明の進歩性が否定されると判断したことは正当であり、さらに上告理由の主張のように必要な審理を尽くさないまま特許発明の進歩性判断に関する法理を誤解し判断を逸した等、判決に影響を及ぼした誤りはない。

 

コメント

 

選択発明とは、先行発明を構成する上位概念のうち、その全部又は一部に該当する下位概念のみで構成された発明を意味する。

選択発明については、先行発明と比較して異質的又は顕著な効果があってこそ進歩性が否定されないというのが従来の判例の態度である(大法院2011.7.14言渡し2010フ2865判決等)。選択発明に対して一般発明より厳格に進歩性判断をする理由は、先行特許において広い権利範囲が確保されている場合に、その後続特許でも権利が成立して二重の恩恵が与えられる不合理を防止するためである。ただし、韓国での選択発明の進歩性判断に関し大法院2019フ10609判決(アピキサバン判決)では、先行発明において特許発明の上位概念が公知となっている場合であっても構成の困難性が認められれば進歩性は否定されないと判示し、選択発明に対して一般発明の場合と区分したり特別に扱ったりしない旨の見解を示している。

 

本件の場合、特許法院と大法院のいずれも、特許発明が選択発明に該当すると判断し、選択発明に対する既存の判断法理を適用して進歩性を否定している。すなわち上述したとおり特許発明について、先行発明に置換基を他の置換位置に置換させることに対する否定的な教示や示唆がないことを根拠に構成の困難性を否定し、特許発明の化合物が持つ寿命及び外部量子効率に対する効果は先行発明と質的に異なる効果とは認められないとして効果の顕著性を否定した。

 

選択発明の場合、特許明細書にどの程度、発明の効果を記載する必要があるだろうか。こうした明細書記載要件に関する判例の態度は、発明の説明においては先行発明に比べて優れた効果があることを明確に記載すれば十分であり、その効果の顕著性を具体的に確認できる比較実験資料まで記載しなければならないわけではなく、後に出願人が比較実験資料を提出する等の方法によってその効果を具体的に主張、立証できると判示されている(大法院2003.4.25.言渡し2001フ2740判決等参照)。すなわち、出願の時点においては発明の構成により特別な技術的効果が発生したことについて明細書に記載することが望ましいといえるものの、特定の先行発明と比較した場合の発明の優れた効果については、当該明細書に記載に基づいて後日の実験データの提出も認められている。こうした点に基づき本件は選択発明の進歩性が否定された事例であって、韓国における進歩性判断の成否を予測する上で参考になる。

共有する

cLose

関連メンバー

CLose

関連メンバー

Close