特許審判院は最近、特許法第95条(存続期間が延長された特許権の効力範囲)に規定された「特定用途」の意味の解釈に対し争った権利範囲確認審判事件において、「特定用途」を最初の許可適応症に限定解釈すべきではないとして、後続の許可適応症に関する確認対象発明は存続期間が延長された特許権の権利範囲に属する旨の審決をした(審判番号2023ダン533、2023ダン534、2023ダン555など)。
本件は特許権者であるオリジナル社側を当所で代理した事件として、現在、特許法院に係属中ではあるが、韓国における新薬の保護に影響を与えるものと考えられ、以下、紹介する。
事実関係
本件特許権者は、K-CAB錠(Tegoprazan)の物質特許に係る特許権を有し、最初の許可適応症に基づく特許権存続期間の延長登録を受けている。
これに対し約70のジェネリック社は、K-CAB錠の最初の許可適応症を除いた3つの後続の許可適応症をそれぞれ確認対象発明とし、韓国の審判でも例を見ない計213件という多大な数の権利範囲確認審判を提起した。ジェネリック社は、K-CAB錠の最初の許可適応症と後続の許可適応症は異なるため、最初の許可適応症に基づいて存続期間が延長された特許権の効力は確認対象の発明に及ばないと主張した。これに対し特許権者は、存続期間が延長された特許権を守るために、ジェネリック社による数々の主張に対して1年余りの間、対応し続けた。その結果、特許審判院は、特許法第95条の規定及び過去の大法院判決(ベキシア大法院判決、2019.1.17.言い渡し2017ダ245798判決)の判断法理に基づき、後続の許可適応症に関する確認対象発明は存続期間が延長されたK-CAB錠物質特許権の権利範囲に属する旨の審決を下し、特許権者が213件の全ての審判事件に勝利する結果を収めた。
特許審判院の判断
本事件における特許審判院の詳しい判断内容は、以下のとおりである。
・特許法第95条は、存続期間が延長された特許権の効力範囲が「延長登録の理由になった許可等の対象物に関する特許発明の実施」に及ぶ旨を規定しているのみで、許可等の対象「品目」の実施に制限しているわけではない。このような法の規定及び趣旨によると、存続期間が延長された特許権の効力範囲の判断は、品目許可を受けた医薬品と、特定疾病に対する治療効果を示すと期待される特定の有効成分、治療効果や用途が実質的に同一であるかを中心に判断すべきである。
(1)本件特許明細書の記載によると、本件特許発明は物質特許として「胃酸の分泌を抑制して治療される酸関連疾患」に使用できる新規のテゴプラザン化合物を創製したことにその技術的意義があり、最初の許可適応症と後続の許可適応症はいずれもテゴプラザンで胃酸分泌を抑制して酸関連疾患を治療するものである。
(2)最初の許可適応症と後続の許可適応症は、①教科書、ガイドライン、学術文献等の文献、②K-CABのようなP-CAB(Potassium-Competitive Acid Blocker; カリウム競争的胃酸分泌抑制剤)の部類に属する他の医薬品の許可事項、③K-CABの前の世代における胃酸分泌抑制剤の開発の歴史及び許可事項等を考慮したとき、「胃酸分泌抑制による酸関連疾患への治療」という点で実質的に同一である。
(3)後続の許可適応症は、最初の許可品目の日よりも前から順次、許可のための臨床試験を準備してきており、そうした臨床試験の日程に応じて許可された順番が異なっただけで、各許可適応症に具現された技術的意義、治療効果や用途の違いによってその許可時期が異なったわけではない。
コメント
存続期間が延長された特許権の効力については各国で扱いが異なっており、欧米では、存続期間が延長された特許権の効力を、許可された有効成分を含有する医薬品の「すべての用途」に及ぶものとして広く認めている。これに対し韓国は、延長された特許権の効力範囲を許可対象物の「特定用途」に及ぶものと規定している(特許法第95条)。日本も延長された特許権の効力範囲に関して韓国と類似の法文規定を置いているが、最初の許可に基づいて1回のみ延長可能な韓国とは異なり、複数の許可に基づいて複数回の延長が可能とされており、それに基づいて延長された特許権の効力範囲を認めている。
韓国の特許法第95条の「対象物」の解釈については、2019年のベシケア大法院判決において、「対象物」は許可医薬品の主成分(ソリペナシンコハク酸塩)ではなく有効成分(ソリペナシン)と解釈すべきであると判示されている。これ以降、ジェネリック社は、医薬品の主成分を許可医薬品とは異なる他の塩又は溶媒和物等に変更する方法では延長された特許権を回避することが難しくなったことから、特許法第95条の「特定の用途」の意味が最初に許可された薬事法上の適応症(効能ㆍ効果)に限定されるべきである旨を主張するようになっている。すなわちジェネリック社は、存続期間の延長登録の基礎となった最初の許可適応症を削除して後続の許可適応症のみで許可を受けることにより、延長された特許権を回避しようとする戦略を試みている。
こうした中、特許法第95条の「特定用途」の意味についてオリジナル社とジェネリック社との間で解釈上の争いが生じているところ、これまで特許審判院の事件において、特許法第95条の「特定用途」は最初に許可された適応症(薬事法上の効能·効果)に限定されるものではなく「特許法上の用途」を意味するものであるため、存続期間が延長された特許権の効力範囲は最初の許可適応症を超えて後続の適応症にも及ぶ旨の審決を下した(ガブス事件及びイグザレルト事件1)。この2つの審判事件は、延長された存続期間が満了した等の理由により請求人が審決への不服を申し立てなかったことから、特許法院での審理はなされず確定した。
これに関連し、本審決も同様に、特許法第95条の「特定用途」を最初の許可適応症に限定解釈すべきではない点を再確認したという点で意義がある。すなわち本審決は、新薬開発のために多大な労力を投じたオリジナル社の正当な利益は当然保護されるべきである一方、かかる医薬品開発に対して労力もかけずにただ乗りしようとするジェネリック社の便法は許されないことを明確にしたものである。こうした本審決の立場は、オリジナル社の新薬開発に対して持続的に投資できるようにし、それが韓国国内の医薬産業の発展につながることを期待するものといえよう。本審決については多くのジェネリック社が不服として特許法院に提訴したおり、これにより特許法第95条の「特定用途」の意味について特許法院の判断を受ける最初の事件になるものと思われ、その帰趨が注目される。
1.ガブス事件およびザレルト事件も当所が特許権者側を代理している。