特許法院は、美白効果を有する植物抽出物組成物に関する出願発明において、明細書に記載された分析方法を再現して発明の効果を確認するのに特に困難がないのであれば、その明細書が記載要件を満たしているといえるために当該植物抽出物組成物に関する実験データが明細書に必ずしも具体的な数値として記載されるべきことは要求されないとし、出願発明における記載不備の拒絶理由はないものと判断した(特許法院2024.6.13.言渡し2023ホ11852)。
事実関係
出願の発明は「肌のトーン向上のための植物抽出物の組合せ物」を発明の名称として美白効果を有する植物抽出物の組成物に関するものであるところ、出願明細書には、抽出物が美白活性を有する旨の記載及びその効果の分析方法が記載されているだけで、美白効果を確認できるだけの具体的かつ定量的なデータの記載はない。特許庁の審査官は、出願発明の組成物が美白又は肌のトーン均一化の効果を示すと認めるだけの定量的な実験データが明細書に記載されていないため、出願発明は明細書記載要件及び請求範囲の裏付けになるサポート要件を満たしていないとの理由で拒絶決定をした。これに対して原告は拒絶決定不服審判を請求したが、特許審判院は審査官と同じ理由で原告の審判請求を棄却した。原告はこれを不服として審決取消訴訟を提起した。
法院の判断
(関連法理) 物の発明において、その発明の「実施」とは、その物を生産、使用する等の行為をいい、物の発明において通常の技術者が特許出願当時の技術水準から見て、過度な実験や特殊な知識を付加しなくても発明に記載された事項によって物自体を生産し、これを使用することができ、具体的な実験等で証明されていなくても通常の技術者が発明の効果の発生を十分に予測することができるのであれば、旧特許法第42条第3項第1号で定めた記載要件を満たすと認められる(大法院2021.12.30.言渡し2017フ1298等参照)。
(事案への適用) 特許法院は、通常の技術者が出願発明の明細書に記載された事項と優先権主張日当時の技術常識とに基づいて出願発明の組成物を生産して使用するのには困難がないとした上で、出願発明の組成物によって発揮される効果を出願発明の明細書記載から通常の技術者が十分に予測できると判断した。その具体的な判断根拠として、特許法院は下記の内容を挙げた。
1) 明細書には「メラノジェネシス(Melanogenesis)は、皮膚、頭髪及び目に色を付与する自然に生産された色素、メラニンを生成することによるプロセスである。メラノジェネシス抑制は肌が暗くなることを防止し、老化と関連した暗い斑点を明るくするのに有用である」と記載されており、メラノジェネシス活性の減少が肌の美白又は肌のトーン均一化効果を示すということは出願発明の優先権主張日以前から知られている事項と認められ、これに関しては当事者間で実質的な争いがない。
2) 明細書の識別番号[0111]の部分はシロインゲンマメの水性抽出物とアズキマメの水性抽出物の両方がメラノジェネシス活性を減少させるのに効果がある旨の結論のみを記載しており、識別番号[0115]の部分はB16メラノジェネシス分析方法のみを提示しているだけで、具体的かつ定量的な実験データを明示してはいない。
3) 識別番号[0115]の部分に記載された細胞培養と分光光度測定を用いた分析方法は、当該技術分野において基礎的な実験技術を有する者であれば容易に実施できる実験方法とみられ、「シロインゲンマメの水性抽出物」や「アズキマメの水性抽出物」は、シロインゲンマメの粉末やアズキマメの粉末から得られた水溶性抽出物であるため、その生成や細胞処理において通常の技術者に困難があるとは認められない。
4) 識別番号[0111]の記載は、「シロインゲンマメの水性抽出物」と「アズキマメの水性抽出物」のいずれもメラノジェネシス活性を減らすのに効果があるという意味である。原告は出願発明の優先権主張日以前にアズキマメの水性抽出物などを対象に本件分析方法を遂行し、それによってメラノジェネシス活性減少という効果を実際に確認した。
5) 組合せ物の「シロインゲンマメの水性抽出物及びアズキマメの水性抽出物」に対する実験が明細書に含まれておらず、それに対する実験結果を見つけることができないとはいえる。しかし、シロインゲンマメとアズキマメはいずれもマメ科植物として植物分類体系上でも比較的近い関係にあり、シロインゲンマメの水性抽出物に含まれる物質とアズキマメの水性抽出物に含まれる物質が互いに拮抗作用を起こさないということは、通常の技術者にとって自明な内容である。先で見たように、シロインゲンマメの水性抽出物とアズキマメの水性抽出物はそれぞれ独立的にメラノジェネシス活性減少効果を示すが、通常の技術者であれば組合せ物の「シロインゲンマメの水性抽出物及びアズキマメの水性抽出物」もそのような効果を有すると予測できると思われる。
一方、特許法院は、出願発明は旧特許法第42条第4項第1号のサポート要件も充足すると判断した。すなわち特許法院は、出願発明の組成物に対応する事項が発明の説明に記載されているため、出願発明は発明の説明によって裏付けられると認めるのが妥当であり、美白又は肌トーンの均一化の効果を示す具体的かつ定量的な実験データが明細書に記載されていないという事情だけで、これとは異なって認定することはできないと判断した。
コメント
本件は、いわゆる機能性化粧品に関する発明の明細書記載要件について争われたものであって、本件事例でも見られたとおり、韓国特許庁の機能性化粧品に関する審査実務は医薬用途発明のような定量的データの明細書記載要件を厳格に要求してきた。
これに対し本件で特許法院は、こうした審査実務とは異なる判断をしたものといえ1 、かつ既存の類似事件における特許法院判決(特許法院2008.3.26.言渡し2007ホ4564参照 )とも異なる判断をしたものとして、機能性化粧品に関する発明の効果について明細書中の定性的記載と優先権主張日当時の技術常識とに基づいて明細書記載要件を緩和して判断した。実務上有意な事例といえるとともに、今後の審査実務への影響の有無については見守る必要があろう。
1 当該判決において特許法院は「明細書に表現上、医薬発明と明示されていなくても、その発明が実際に医薬発明に該当する以上、その発明は医薬発明と認めるべきであるところ、本件補正発明の組成物は、肌の美白効果がある機能性化粧品に使用されることもあり、肌の病的な着色を治療する医薬として使用されることもあり得るため、本件補正発明は化学物質の用途発明として医薬用途発明にも該当するということができ、その請求範囲に記載された組成物の明細書記載の効果を示す作用メカニズムがその優先権主張日以前に既に明確になっているという資料がないことから、その明細書の詳細な説明に通常の技術者が容易に実施できるようにその組成物の肌の美白効果を確認できる臨床実験や動物実験又は試験管内実験(in vitro)等による具体的かつ定量的な実験結果を記載し、又はこれに代えられる程度にその効果を具体的に記載すべきである。」と判断した。




