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ニュースレター

特許法院、溶媒和物の形態に変更された確認対象発明が存続期間が延長された物質特許の権利範囲に属すると判断

2025.02.18

韓国特許法院は、「確認対象発明は、有効成分及び治療効果が特許発明と同一で、プロピレングリコール溶媒和物の形態への変更も技術的に容易な範囲であるため、存続期間が延長された特許発明の保護範囲に属する」とした上で、特許審査の過程で「溶媒和物」を削除する補正をした事情だけでは特許権者が「プロピレングリコール溶媒和物」を特許発明の権利範囲から除外しようとする意志が明確にあったとは認められないと判断した(特許法院2024.10.23言渡し2023ホ13438判決)。

 

事実関係 

 

原告は抗凝固剤成分である「エドキサバン」を含む医薬品に対する特許権者であり、特許発明の存続期間が薬事法により許可を受けた品目である「エドキサバントシル酸塩水和物」を根拠として延長された。被告は原告に対して、確認対象発明は存続期間が延長された特許発明の権利範囲に属さないとして消極的権利範囲確認審判を請求し、存続期間延長の理由になった許可対象医薬品である「エドキサバントシル酸塩水和物」から確認対象発明の「エドキサバンプロピレングリコール溶媒和物」への置換容易性は認められず、「溶媒和物」は審査段階で意識的に除外されたものである旨を主張した。特許審判院は被告の審判請求を認容する審決を下し、原告は本審決を不服とし審決取消訴訟を提起した。

 

・特許発明の代表請求項は下記のとおりである。
「化学式1(化学式構造省略)として表示される化合物、その塩、又はそれらの水和物」

・特許発明の出願経過において審査官は出願発明に対して、「溶媒和物」はいかなる溶媒及び溶媒和物を成すものか把握できない表現で、実施例には溶媒和物が何ら記載されておらず、全ての溶媒及び溶媒和物を形成できることが明らかであると認定するだけの根拠がないとして、明確性要件及びサポート要件違反を理由とする意見提出通知をした。これに対し原告は「溶媒和物」を「水和物」に補正し、このような水和物が実施例に開示されているため、上記の拒絶理由が解消された旨の意見書を提出し、上記の請求項のとおり「化合物、その塩、又はそれらの水和物」として特許登録がされた。 

 

法院の判断 

 

特許法院は、特許権存続期間の延長制度に関する旧特許法(2011年12月2日に改正される前のもの)第89条と、存続期間が延長された特許権の効力に対して旧特許法第95条の法令の規定及び制度の趣旨等を説示しながら、まず次のような判断基準を提示した。   

 

存続期間が延長された医薬品特許権の効力が及ぶ範囲は、特許発明を実施するために薬事法により品目許可を受けた医薬品において特定疾病に対する治療効果を現わすものとして期待される特定の有効成分、治療効果及び用途が同一であるか否かを中心に判断すべきである。特許権者が薬事法により品目許可を受けた医薬品と特許侵害訴訟で相手方が生産等をした医薬品(以下「侵害製品」とする。)との間で薬学的に許容可能な塩等について差があるとしても、発明が属する技術分野で通常の知識を有する者(以下「通常の技術者」とする。)であれば容易にこれを選択することができる程度に過ぎず、人体に吸収される有効成分の薬理作用によって現れる治療効果や用途が実質的に同一であれば、存続期間が延長された特許権の効力が侵害製品に及ぼすと見るべきである(大法院2019.1.17.言渡し2017ダ245798判決、以下「ベシケア大法院判決」とする。)。

 

続いて、本事案における2つの主な争点について、特許法院は下記のとおり具体的に判断した。

 

●通常の技術者が有効成分の固体形態を容易に変更することができるかどうか 

 

特許法院は、確認対象発明は許可対象医薬品に対し溶媒和物という点で差があるが、①有効成分はエドキサバンとして同一であり、②治療効果及び用途が同一である点に対しては当事者間に争いがなく、③有効成分の固体形態(塩、水和物、溶媒和物、共結晶等)を変更することができるかどうかについては、次のような根拠で通常の技術者が容易に変更することができると判断した。  

(1)まず、①通常、医薬化合物は医薬品に含まれる最終形態である主成分が「遊離形態」の化合物である場合もあるところ、塩、溶媒和物、水和物、共結晶等の多様な固体形態で使われる場合も多く、②医薬品開発過程で該当医薬化合物に対する最適な固体形態を選択するのは重要な意思決定の段階であり、③このようなスクリーニング手順を通じて特定の固体形態が医薬品に適合した「主成分」として最終的に選択されるとしても、特別な事情がない限り生体内に吸収されて薬効を発現するのは遊離形態の医薬化合物であるため、固体形態に応じて薬効を現わす有効成分は変化しないということは医薬分野の技術常識に該当する。

(2) さらに、①特許発明の明細書には、保護を受けようとする化合物の記載として並列的に「その塩」、「それらの溶媒和物」又は「それらのN-オキシド」を併記しており、同じ有効成分に対して物理化学的特性等を考慮して多様な固体形態に変更され得るということを容易に認識でき、②特許発明はこのような固体形態の種類を単純に羅列しているのではなく、有効成分の代案的固体形態として「塩」とは区分して「溶媒和物」について別途に説明しているため、直接的に溶媒和物固体形態への変更を提案しており、③通常の技術者は、本件許可対象医薬品における有効成分であるエドキサバンは「血液凝固抑制剤」等としての有効性・安全性が満たされるものとして最初に医薬品許可を受けたものであり、主成分形態である「エドキサバントシル酸塩水和物」は新薬開発の段階で最終的に選択され適合された固体形態に過ぎないと明確に理解するものと認められ、④新規医薬化合物を提供する物質特許の出願当時の明細書に「医薬的に許容できる」全ての固体形態の種類を文言的に記載したり実施例に具体的に特定して記載したりするのは事実上不可能であるため、こうした点を考慮すると通常の技術者は本件特許発明において溶媒和物固体形態に容易に変更することができると認めるのが妥当である

(3) 加えて、①「プロピレングリコール」は1970年後半に医薬品の溶媒和物として報告されて以来、吸湿性が低い優秀な特性があるという点や、優秀な物理化学的特性を持つ溶媒和物が得られるということが何度も報告されている点、相当な過用量でも副作用の憂慮なく使用できることがよく知られているという点、②プロピレングリコール溶媒和物は医薬品の最初の許可だけでなく、後発走者であるジェネリック医薬品に対しても活用された事例がある溶媒和物形態であるという点、③確認対象発明は許可対象医薬品の有効性・安全性に関する許可資料を一部援用して生物学的同等性試験資料として品目許可を受けることができる医薬品に該当すると認められる点を考慮すると、通常の技術者は審決当時エドキサバンの代案的固体形態として、エドキサバンプロピレングリコール溶媒和物を選択するのに特別な困難がないと認めるというのが妥当である

 

「エドキサバン溶媒和物」が特許発明の請求範囲から意識的に除外されたかどうか 

特許法院は、原告が特許発明の出願過程で特許発明の権利範囲で確認対象発明の「エドキサバンプロピレングリコール溶媒和物」を除外しようとする意志が存在したとは認めにくく、別途これを認めるほどの証拠がないと判断し、次のような根拠を提示した。

(1)①特許発明は新規の化合物を提供するもので、保護を受けようとする事項は医薬活性を有する化合物としての物質特許である。②医薬分野で有効成分に対する最適な形態を探索することは周知・慣用的に行われ、塩、溶媒和物等は有効成分の化合物が医薬として薬効を確実に発現することができるように製剤化の過程で変形させた代案的主成分形態として広く活用されている。理論的に存在可能な全ての塩や溶媒和物に関する実施例を物質特許の出願当時、全て記載するのは現実的に難しいため、医薬業界では具体的な実施例が記載されていなくても、「化学式Iの化合物」に付け加えるかたちで「医薬的に許容可能な塩」、「それらの溶媒和物」のような機能的表現を並列的に記載してきた。③特許発明の審査段階で審査官の「いかなる溶媒及び溶媒和物を成すのかが把握できず、実施例からもその種類が確認されない」という拒絶理由は、「溶媒和物」に該当し得る溶媒の技術的範囲を確定することができず実際にどのような溶媒和物が製造されるのかが把握できないという趣旨で拒絶理由を通知したものと理解される。④医薬分野で溶媒和物及びその存在の可能性に対しては通常の技術者が十分に認識しているが、いかなる溶媒及び溶媒和物を形成するかについては直接的に実験を行わずには把握できず、そうした理由から「通常のスクリーニング」が行われていることは上述したとおりである。

(2)以上を考慮すると、ⅰ)拒絶理由に対応して許容される「溶媒」の文言範囲を物質特許の出願段階でどの範囲まで特定又は限定しなければならないかが不明確である点、ⅱ)特許発明の明細書で実行可能な溶媒和物の全ての実施例を記載するのは現実的に困難である点、ⅲ)物質特許である化学式Iの化合物を請求範囲に明示しており、その溶媒和物及びその存在の可能性はよく知られているので、「可能な全ての溶媒和物」を権利範囲から除外したとは認め難い点、ⅳ)原告としては物質特許である化学式Iの化合物を権利化するのに困難はなく、むしろ審査官の拒絶理由に応じない場合に進み得る拒絶決定不服審判及びその後の手続き進行による登録の遅れに備えて、迅速な権利化のために実施例から確認される「水和物」に権利範囲を補正したと認められる点等に照らしてみるとエドキサバンの溶媒和物を意識的に除外したものとは断定し難い。

以上により、特許法院は、確認対象発明は存続期間が延長登録された特許発明の保護範囲に属すると判断した。

 

コメント 

 

韓国では2019年にベシケア大法院判決において、ジェネリック社の「塩変更医薬品」が存続期間が延長された物質特許の権利範囲に属すると判断された判決が出されており、このとき示された判断基準は本件判決にも引用されている。具体的に当該判断基準は、品目許可を受けたオリジナル医薬品とジェネリック社の塩変更医薬品とが有効成分、治療効果及び用途において同一であるか否かを中心に判断した上で、塩等の違いについては通常の技術者にとって当該変更が容易であるかどうかを判断すべきというものであって、この判決の趣旨に基づいて本件において特許法院は、ジェネリック社による「溶媒和物」形態への変更の容易性について肯定する判断をした。加えて特許法院は、特許請求項において「溶媒和物」形態が審査過程で明確性要件及びサポート要件の解消のために削除されたという事情だけでは意識的除外は認められないと判断した。  

本判決は存続期間が延長された特許発明の保護範囲を判断するに際し、過去のベシケア大法院判決で塩変更医薬品について示された判旨に基づいて、溶媒和物形態に変更した医薬品においても存続期間が延長された特許権の権利範囲に属し得ることを確認した点に大きな意味がある。こうした近年の特許権保護を重視する判決により、ジェネリック社は、医薬品の主成分を既許可オリジナル医薬品とは異なる塩や溶媒和物等に変更する方法により、存続期間が延長されたオリジナル医薬品の特許権を回避しようとする戦略を成功させることは困難になっているといえる。

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