韓国知識財産処(旧韓国特許庁)は、2025年2月の特許・実用新案審査基準の一部改訂(以下、「本改訂」)を通じて、同日出願された上位・下位発明に関する同一性の判断基準に関する記載を変更した。
具体的には、本改訂によって、韓国特許法第36条(先願)に関連する審査留意事項のうち、「(6)発明A及びBの出願日が同じ場合において、発明Aを先願とし発明Bを後願と仮定して両者を対比したとき、後願発明Bが先願発明Aと実質的に同一であっても、発明Bを先願とし発明Aを後願と仮定して両者を対比したとき、発明Aが発明Bと実質的に同一でないと判断されるのであれば両者は同一でないものと扱う」という規定(以下「当該規定」)が削除された。
以下、本改訂の背景及び趣旨と、これによる実務上の影響および対応について説明する。
本改訂の背景及び趣旨:重複特許の防止及び判断基準の一貫性の確保
上述の当該規定に基づく従来の特許審査では、原出願と分割出願が文言的に同一である請求項に対してのみ主として第36条(先願)による拒絶理由が通知されてきた一方で、仮に分割出願の発明が原出願の発明の上位概念であるという理由で先願主義違反を審査官が指摘したとしても、当該規定に基づいて出願人が両発明は同一でない旨を主張すれば審査官はこれを否定しにくく、そのまま登録する傾向があった。このため一出願の中で従属項として記載できる発明が分割出願として登録されることで、「実質的同一」の発明について複数の特許権が重複して存在するようになることから、出願人が異なる場合や出願日が異なる場合に適用される「実質的同一性判断の原則」とは異なる審査結果が生じているという問題があった。
こうした状況に対し、本改訂は、韓国の判例が採用してきた先願主義に関する同一性判断基準、すなわち両発明の構成に差があっても、それがその技術分野で通常の知識を有する者が一般に採用する程度の変更にすぎず、発明の目的及び作用効果に特段の差がなければ、両発明は同一のものとして扱うという基準(大法院2009.9.24.言渡し2007フ2827等)を、同一人の同日出願の審査においても一貫して適用することとしたものである。
実務上の影響及び対応
本改訂の影響により、日本の審査では分割出願時に許容される請求項であっても、韓国の審査では、先願主義に関する当該規定の違反により重複特許と判断と判断されて、拒絶される可能性が生じる。
本改訂による先・後願発明の同一性判断の変更

従来は例えば原出願は構成Aが金属で、分割出願は構成Aがアルミニウムである場合、改訂前の当該規定に基づいて、分割出願を先願、原出願を後願と仮定すると、後願は上位概念にあたるため先願と同一発明であるとされるが、原出願を先願、分割出願を後願と仮定すると、後願は具体化された下位概念にあたるため先願と同一発明ではないと扱われ、先願規定には違反しなかった。
しかし本改訂後は、上位概念の発明から下位概念の発明が自明に導き出せるかどうかにより判断され、これにより上位・下位概念で表現された場合の新規性判断1 と同様に扱われることになる。すなわち、原出願の上位概念の発明(Aが金属)から分割出願の下位概念の発明(Aがアルミニウム)が自明に導き出せると判断されれば、分割出願は先願規定に違反すると判断される。
したがって、本改訂により分割出願の発明の記載は、原出願の発明に対する形式的な差異があるだけでは十分でなく、原出願の発明から分割出願の発明が自明に導き出せるか否かに基づいて先願主義の判断がされることを念頭に置く必要がある。加えて、本改訂前に登録された特許であっても当該規定に関する無効事由は生じ得るため、そうした場合に備えて訂正の可能性を考慮する必要もある。
さらに明細書作成の段階から、当該明細書に含まれる各発明の構成の差により技術的にどの程度の顕著な効果を示し得るかを具体的に明細書に記載しておくことの重要性が一層高まったといえる。すなわち、一出願内で多様な実施例や従属請求項を網羅的に記載しておくことで、審査の進行過程に応じて戦略的に分割出願を行うことも可能となり、権利確保の柔軟性や確実性を高められると考えられる。
なお、韓国では特許・実用新案審査事務取扱規程の改訂(2025年1月1日施行)により、分割出願の審査順序は「原出願の審査請求」の順ではなく「分割出願の審査請求」の順を基準とするように変更されており、分割出願の審査着手の時期は従来より遅くなっている。したがって、現状、原出願が審判係属中である場合には、分割出願に対する最初の拒絶理由通知(OA)が発行されるよりも先に原出願の審決が出る可能性が高くなっている。このため、原出願と同一の発明を分割出願に記載した場合であっても、分割出願のOAが早期に発行されて不必要に応答期限を延ばして審決を待つ事案は少なくなると考えられる2 。このような場合、分割出願の発明の記載に関しては、原出願の審決が出た後にその結果に応じた補正等を含めた柔軟な対応が可能になると期待される。
1 韓国の新規性判断の審査基準には、例として、請求項に送電用超伝導ケーブルの材料として銀が記載され、引用文献では金属製の超伝導ケーブルが公知であった場合、送電分野で超伝導現象を利用するためにケーブル材料として銀を用いることが周知慣用技術に該当するならば、金属製の超伝導ケーブルから銀製の超伝導ケーブルは自明に導かれるため、新規性が否定されると記載されている。
2 分割出願のOAが発行された際、原出願の審決が未だ出ていない場合には、原出願が審判で係属中であることを理由に、分割出願のOA期限の延長が可能。




