Skip Navigation
Menu
ニュースレター

分離出願、どのように活用すべきか

2022.08.16

特許分離出願制度が導入され、2022年4月20日付で施行されている。審査段階の拒絶決定で一部の登録可能な請求項があるにもかかわらず、審判で棄却されたときに権利化の機会が喪失される状況を改善するために導入された制度で、 近いうちに分離出願ができる対象件が発生する可能性が高くなっている。
制度内容については当所のNewsletter 2022 Issue 1で分割出願制度と比較して紹介したが、制度に関する説明だけでは実務上発生し得る理解しにくい事項があるため、Q&A形式で、以下詳しく説明する。

分離出願は、特許法第52条の2として新設され、既存の分割出願(特許法第52条)と類似の制度であるが下記の表から分かるように、出願の対象および時期などにおいて一部差があり、再審査請求や他出願による派生出願は許容されないという点に留意する必要がある。下記の表で比較した事項以外は、分割出願と同一に適用される。

 

 

 

分離出願の対象


Q. 審査段階で拒絶決定された一部の請求項について、審判で登録可能である旨の判断がなされた場合、分離出願は可能か。        
A. 分離出願は審査段階の結果のみを基準にして判断するので、審判段階で登録が可能であると判断されても分離出願は不可能である。

Q. 記載不備により拒絶決定された請求項を補正して分離出願は可能か。    
A. 拒絶決定された請求項は分離出願の対象ではないので、補正をしても分離出願は許容されない。

Q. 明細書にのみ記載された発明を請求項に追加して分離出願することは可能か。
A. 拒絶決定で拒絶されなかった請求項に従属項を追加し、または最後の補正要件に合う請求項を追加することは可能であるので、明細書に記載された発明も要件を満たせば追加して分離出願が可能。

Q. 請求項の新規事項を削除して分離出願することは可能か。
A. 新規事項に関する拒絶理由が通知されていない場合には可能。ただし新規事項により拒絶決定され、審判で棄却審決が下された場合、分離出願の対象にならない。

 

分離出願の審査


Q. 分離出願の審査請求期間と審査着手時期は?
A. [審査請求]原出願から3年以後に分離出願される件の場合には、分離出願をした日から30日以内に審査請求をしなければならない。(特許法第59条第3項)
A. [審査着手]原出願の審査請求の順位によるものの、審査請求日から3ヶ月と出願書類の移送を受けた日から2ヶ月のうち遅い日が属する月の最後の日までに審査着手をしなければならない。(審査事務取扱い規定第20条第1項、第21条第3項)

Q. 分離出願後に発行されるOAに対する補正要件は?
A. 分離出願時の請求項に関する制約は出願段階全体に適用され、OA(Office Action)に対する補正も分離出願の範囲を超える場合には拒絶理由通知および拒絶決定の対象になる。(特許法第62条第6項)

Q. 棄却審決された原出願を基礎に複数の分離出願が可能か。
A. 特許法第52条の2第1項第1号に、「その特許出願の一部を新しい特許出願で分離することができる」と記されており、分離出願の場合にも原出願を基礎にして複数の出願を許容していると解釈される。

 

コメント


従来、拒絶決定不服審判において一つの請求項でも拒絶理由があれば請求項全体が特許を受けることができなかったため、審判請求前に、棄却審決に備えたバックアップ用として分割出願の活用が必要とされていた。分離出願制度の導入によって、拒絶決定書で拒絶されていない一部の請求項がある場合には、バックアップ用分割出願をせずに拒絶決定不服審判で棄却審決が出されても一部の請求項を権利化できる途が生まれた。 

これに加えて、審判請求時に分割出願の機会を逃した場合であっても拒絶決定されなかった請求項を再度活用することができるようになり、その他、ビジネス上の理由などにより分割出願をせずに審判結果を見守ることとした場合にも、分離出願をするかどうかを決定するまでの時間的余裕を確保することが可能になった。さらに、バックアップ用分割出願をした場合には、原出願の審判結果が出るまでに分割出願において相当な期間の期間延長申請を必要とする場合があったが、分離出願を用いれば、こうした期間延長費用の削減効果も期待できるようになった。

ただし、分離出願はこれを基礎にして新しい分離、分割、変更などの出願は不可能で、特に拒絶決定されなかった請求項の範囲内だけで出願および補正が可能であるため、分割出願に比べて権利化の範囲に制約が多いという短所がある。
現段階では分離出願の事例がまだなく、今後より良い活用方案も出てくると期待されるものの、分割出願を戦略的に活用する必要性は依然として存在しており、従来どおり、実務上は「分離出願」より「分割出願」を先に検討すべきものと思われる。

共有する

cLose

関連メンバー

CLose

関連メンバー

Close